2011 年 1 月 1 日 のアーカイブ

佐藤延夫 11年01月01日放送



ある正月/芥川龍之介

酒が嫌いで、風呂も嫌い。
生ものは一切食べず、
ハマグリなどの貝類も受け付けない。

芥川龍之介は、作家であると同時に、偏食家でもあった。
唯一、好んで食べたのは、
鰤の照り焼きだったそうだ。

そんな芥川家のお正月。
小松菜、大根、里芋、くわい、タケノコ、鳥肉を並べ、
お雑煮は、切り餅を焼かずに、お湯で煮る。
驚くほど質素だが、
大晦日の晩には、昆布と小梅を入れたお茶を、福茶と呼んでたしなんだ。

新しい年に、福が来るように。

誰もが思う小さな願いは、この偏屈そうな男の心にも、ちゃんとある。





ある正月/高浜虚子

俳人、高浜虚子は長生きだった。

三十歳まで命があればいい、と思っていたそうだが、
実際は八十五歳で生きたし、そのあいだも俳句を詠み続けた。
晩年になっても正月を迎えるたびに、自分の気持ちを言葉にした。


  揺らげる歯 そのまま大事 雑煮食ふ

  酒もすき 餅もすきなり 今朝の春

  斯くの如く 只ありて食ふ 雑煮かな


最後の句は、八十三歳の作。
高浜虚子先生、どうやらお雑煮がお好きだったようで。








ある正月/折口信夫

源氏物語の一節。
「いとかたかるべき世にこそあらめ」
この言葉を、
「なるほど世間はむずかしい」

そう訳したのは、民族学者の折口信夫だ。
古典の口語訳を喜んで引き受けたのは、
同居する弟子たちの食事代を捻出するためだったという。

正月になるとさらに多くの弟子が集まるので
築地市場や百貨店をまわり
おでんの具に高級ハム、合鴨などを買い漁った。

弟子のひとりは、のちにこう語っている。

  食べ物にかけては掏摸のように敏捷で貪欲な先生だった。

なるほど、世間は難しい。





ある正月/南方熊楠

生物学者、南方熊楠。
この人は、学者というよりも
野生児と呼んだほうが、しっくりくる。

普段は服など着ずに裸で暮らし、酒は浴びるように飲む。
ビールなら1ダース。
日本酒は茶碗でがぶがぶと飲んだ。

武勇伝も多い。
アメリカでは、得意の柔道で不良たちを投げ飛ばし、
イギリスの大英博物館に勤めていたころには
侮辱した白人を殴り倒し、入館禁止になった。

その反面、驚くべき記憶力を持つ。
読み漁った本の内容を鮮明に覚えており、
家に帰ってから完璧に写し書いた。
語学力も堪能で、十数カ国語を話したという。

そんな熊楠のお正月。
おせち料理とお雑煮を好んで食べたが、
「おめでとう」という言葉は禁じていた。

  命が縮まるのに、なにがめでたいか。

なにからなにまで破天荒なこの男。
のちに民族学者の柳田國男が、
熊楠を「日本人の可能性の極限」と喩えたのも、よくわかる。





ある正月/柳田國男

食事を味わうよりも、
この人は、食事を調べるほうが好きなのではないか。

民族学者、柳田國男の本をめくると、
ついそう思えてくる。
彼自身も美食を嫌い、質素な食事を好んだ。

正月にまつわる食べ物の記述は多いが、
美味しそうな話はなかなか見つからない。
たとえば鏡餅については、このように記している。

  鏡餅の“カガミ”とは、各人に平等に向けられる鏡で、
  ここに食物分配の本来の意義があるとする。

なるほど。
お正月から、背筋がぴんと伸びました。





ある正月/小泉八雲


  日本人は立派な文明を持っていながら、
  好んで野蛮人の真似をしたがる。


明治時代、欧米の文化に心酔する日本国民を
そう言って批判したのは、小泉八雲だ。

日本人よりも日本人らしいこの男は、
お正月のしめ飾りを気に入り、
一月の末までそのまま飾り続けていたそうだ。





ある正月/幸徳秋水

明治時代の思想家、幸徳秋水。

日露戦争に異を唱え、鋭い論調で政府を批判したが
彼そのものは呑気な性格であり、
私生活では酒と女。放蕩に身を任せていた。

昼酒をあおり大切な帽子をなくす。
給料を前借りして飲みまわる。
そんなことを繰り返すと、
年の暮れには一銭も残らない。

家計にまわす金はなく、
母や妻に対し、不孝の子にして不仁の夫なりき、と自らを戒めている。

幸徳秋水の、ある元旦。
大逆事件の首謀者として疑われ、
獄中で最後の正月を迎えた。
友人への手紙には、こうつづられている。

  弁当箱を取り上げると、急に胸が迫ってきて数滴の涙が粥の上に落ちた。
  僕は始終、粥ばかり食ってる。

この数日後、死刑を宣告された。
今年は、それからちょうど100年。
のどかな正月を送れるのは、本当に幸せなことだと思う。
心配事は、いろいろあるけれど。


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脱兎の如く・兎に角・兎死すれば狐これを悲しむ・兎に祭文(効果がない)
兎の登り坂(順調)・兎の糞(長続きしないこと)・兎兵法(実用性がない)
兎の股引(持続しない)・始めは処女の如く後は脱兎の如し
二兎を追うものは一兎をも得ず

ウサギ年もチームVisionをよろしくお願いいたします。

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