佐藤延夫 11年11月5日放送



戸塚洋二さんの話1

ある少年が、ラジオを聞いている。
そのうち、聞くだけでは飽き足らず、
バラバラに壊し、
中身をじっくりと観察する。

どうやらエナメル線の巻いてある数には規則性がある。
蓄電池との関連も気になる。
これは奥が深いなと思う。

そしてラジオが聞けないと文句を言う親を尻目に、
真空管を買ってきて、もう一度組み立てる。

物理学者、戸塚洋二さんは
子供のころから物理学者だった。



戸塚洋二さんの話2

物理学者の戸塚洋二さんは、
不真面目な学生だった。

講義に出ることはほとんどなく、
空手部の部室にたむろしているか、
麻雀に出かけているか。

留年した彼を拾ったのは、
のちにノーベル賞を受賞する小柴教授だった。
その数年後、戸塚さんは奥様にこう言ったそうだ。

「もうさんざん遊んだから、遊びはもういい」

不真面目と大真面目は、紙一重。



戸塚洋二さんの話3

物理学者、戸塚洋二さんの業績といえば、
ニュートリノ振動を確認したことだ。

ニュートリノとは、物質を構成する最も小さい粒子、素粒子のひとつで、
宇宙の中や、人間の体の内部からも発生している。
戸塚教授は、このありふれた粒子、
ニュートリノの質量がゼロでないことを世界で初めて証明した。

そしてノーベル賞の受賞が目前と言われたころ、
ガンと闘いながらブログを開設した。
タイトルは、

A Few More Months

物理学者は、命のことを綴り始めた。



戸塚洋二さんの話4

「負の遺産」。

環境問題について議論されるときに、
必ずと言っていいほど登場する言葉だ。

「絶対に残してはならない」
「我々の世代で解決すべきだ」

専門家や知識人が口角泡を飛ばす中、
物理学者、戸塚洋二さんは、亡くなる前にこんなコメントを残している。

「僕が嫌いな言葉がひとつある。
それは子孫に負を残すなっていう言葉。
若い皆さんは、我々より頭が良くなってるはずなんだから、
彼らに任せれば簡単にやっちゃうよ。」

一見、無責任にも思える言葉は、
裏を返せば、人類への期待と優しさで溢れている。

それは、次の時代を生きる人に贈られたエールなんだ。



戸塚洋二さんの話5

ノーベル賞に最も近いと言われた物理学者、
戸塚洋二さんは、ガンと闘っていた。
病床では学者らしく、
死ぬことがなぜ恐ろしいかを考えた。

「自分の命が消滅したあとでも、
 世界は何事もなく進んでいくからだ」

もちろん、恐怖を克服する方法も、考えた。

「宇宙や万物は、何もないところから生成し、
 そして、いずれは消滅、死を迎える。
 いずれ万物も死に絶えるのだから、恐れることはない」

この理論は、証明されたのだろうか。



戸塚洋二さんの話6

物理学者、戸塚洋二さんは
ブログの中で、いくつもの花の写真を取り上げている。

迫りくる命の終わりを感じながら、
一輪ずつアップで写真を撮り、
こんなコメントを残した。

「命が縮んでいくとき、
 爆発的ないのちを見るのは素晴らしい」

今でもその小さな命は、ブログの中で輝いている。



戸塚洋二さんの話7

ノーベル賞に最も近いと言われた物理学者、
戸塚洋二さんがこの世を去って3年が経つ。

先生の本を開くと、
平成20年にこんな言葉を残している。

「大宇宙は数限りないニュートリノを住まわせるが、
 大宇宙の中でニュートリノが果たしている役割は
 その片鱗さへ分かっていない。」

今年、ニュートリノの速度が、
光よりも速いという実験結果が発表された。
その速度は、毎秒30万6キロで、
光の速度に比べて6キロも速い。

アインシュタインの相対性理論と矛盾する結果に、
戸塚先生ならどんなコメントを残し、
何を思っただろうか。
お話を伺いたかった。

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