三島邦彦 12年8月26日放送


ヤマザキノブアキ
夏の終わりに 安野光雅(あんのみつまさ)

1945年の夏の終わり。
19歳の青年が、靴下いっぱいにつめた米を手に、
軍隊から両親の住む家へと帰ってきた。

出征の時に
両親と別れた峠に再びやって来ると、
ふもとの野原には曼珠沙華が一面に咲いていた。

 わたしは着ていたものをすべて脱いで煮沸し、
 シラミの卵を退治して、やっと兵隊というものから、
 普通の人間に戻ったのだと思っている。

青年はこうして自分の日常を取り戻していった。
焼け跡のぼろぼろになった街を歩きながらも、
安野の目には明るい未来がほのかに見えていた。

 絶望に似た不思議な混沌から、
 何かが芽生えてくる期待だけがあった。

青年の名前は、安野光雅。
豊かな色づかいとやわらかなタッチの水彩画で、
画家として、絵本作家として、
後に海外からも高い評価を受けることになる。

その夏の終わりは
日本中で新しい季節が始まろうとしていた。



夏の終わりに 堅田外司昭(かただ としあき)

1979年の夏の甲子園。
和歌山の箕島高校と
石川の星稜高校の延長戦は
星陵が2度のリードを守れず
最終イニングの18回へ。
両校とも体力は限界に達し、
決着は翌日の再試合に持ち越しかと思われた。

しかし、18回の裏、
星陵の堅田投手が投げた208球目が打たれ、
星陵の夏は突然の終わりを迎える。

その日を振り返り、堅田投手は言う。

 ぼくは泣かなかった。
 眠れずにみんなと話し合っていたことは、
 これで野球からしばらく解放されるということだった。

夏が終わるたび、球児たちは大人になる。
全力を尽くしたものだけが持つ輝きを手に入れて。

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