Patent and the Pantry
Art meets Sweets ① ロダンのレモンカード
彫刻「考える人」は、何を考えているのだろう。
もしかするとそれは、恋の悩みかもしれない。
近代彫刻の父、オーギュスト・ロダン。
彼のお気に入りのスイーツは、
モデルのマダム・ルッセルが作る、
「レモンカード」というジャムだった。
フランスでは馴染みの薄い食べ物だったため、
彼女はロダンに送る際、
クッキーにつけて食べてください
と手紙を添えた。ロダンは、
美味しさと夫人の美しさで
私の喜びは2倍になる
と絶賛。
しかし彼女は人妻だった。
もしもあなたの近くに叶わぬ恋で悩む人がいたら、
甘いジャムを差し入れてみてはいかがでしょう。
もちろん美味しいクッキーも忘れずに。
2014 年 2 月 16 日 のアーカイブ
佐藤理人 14年2月16日放送
佐藤理人 14年2月16日放送
Vanessa (EY)
Art meets Sweets ② プルーストのカフェオレ
紅茶に浸したひとかけらのマドレーヌ。
純白の生クリームを添えた深紅のいちご…。
20世紀初頭、ベルエポックの華やかな食生活を
詩的に描いた作家、マルセル・プルースト。
しかし彼自身は持病の喘息のため、
食が極めて細かった。
彼にとって食事とは貴重な楽しみであると同時に、
命を賭した生きるための行為だった。
この美味しさはもう二度と味わえないかもしれない。
プルーストはひと口ひと口を大切に脳裏に刻み、
美味なるフレーズに換えて文章の中に散りばめた。
そんな彼の唯一つの平穏。それはカフェオレ。
朝のカフェオレの味は、
我々に晴天への漠とした希望をもたらす
代表作「失われた時を求めて」でそう述べた彼は、
死の間際にはカフェオレしか口にしなかったという。
佐藤理人 14年2月16日放送
Art meets Sweets ③ マネのブリオッシュ
服を着た男性とピクニックを楽しむ裸の女性や
娼婦など、スキャンダラスな絵を好んで描いた
19世紀の画家、エドゥアール・マネ。
彼が保守的なフランス絵画界に
受け入れられた理由は、
画家としての革新的な才能だけでなく、
その陽気で知的な性格にあった。
大ブルジョワジーだった彼の家では、
毎週盛大な晩さん会が開かれ、
大勢の上流階級が集まった。
そのまん中に置かれたスイーツが、
子どもの頭ほどある大きなブリオッシュ。
バラの花を挿し、小菓子を周りに敷き詰めた
華やかな姿はまるで、
誰にでも愛され常に人々の中心にいた
マネ自身のようだった。
佐藤理人 14年2月16日放送
Art meets Sweets ④ ノストラダムスの生姜ジャム
もしも明日が地球最後の日なら、
あなたは何を食べますか?
1999年7の月に
天から恐怖の大王が降ってくるだろう
そう予言して世界中を震撼させたノストラダムス。
オカルトイメージの強い彼だが、
実際は博学で人望の厚い医者であり、作家だった。
彼の生まれたプロヴァンス地方は、
有数の果物の産地だったが、
収穫期には食べきれず大量に破棄していた。
どうにかしてこれらを
冬や飢饉に備えて保存できないか。
そう考えたノストラダムスは、
果物を砂糖や蜂蜜漬けにして保存する方法を研究。
1555年、「化粧品とジャム論」という本にまとめた。
お気に入りの生姜のジャムをはじめ、
彼が考えた数々のレシピは、
現在でも使われている非常に高度なものだった。
今、私たちがジャムや缶詰を楽しめるのは、
ひとえに彼の研究成果と、
何より、予言がハズれたおかげなのです。
佐藤理人 14年2月16日放送
Art meets Sweets ⑤ ヘミングウェイのアップルパイ
アメリカの「おふくろの味」は
ヘミングウェイにとって「おやじの味」だった。
結婚してくれたら、
家事はしなくていい
プロポーズの言葉通り、
彼の父は自ら台所に立った。
幼いヘミングウェイのお気に入りは、
アップルパイ。
作家になり、パリに住んだ彼は
自分でもパイを焼いた。
ただしそれは上を皮で覆わない
タルト・オ・ポム
というフランス風。
駆け出しの作家らしい、
材料費を節約する工夫だった。
佐藤理人 14年2月16日放送
Moonik
Art meets Sweets ⑥ デュマのビスキュイ
「三銃士」の成功で巨万の富を築くと、
作家アレクサンドル・デュマはパリ郊外に大豪邸を建てた。
その名も「モンテクリスト城」。彼はそこで
夜な夜な大宴会を催し、美食と恋の限りを尽くした。
しかし晩年には浪費のツケが崇り、
一転、借金に追われる身となった。
戦争ですばらしい功績をあげるより、
おいしい料理を発明した方が、
どれほど人のためになり、名誉なことだろう
執筆や旅行、恋愛にさえ興味を失ったデュマが、
最後に得た人生哲学。それは「食べる喜び」。
遺作「料理大辞典」は、
デュマが世界中をまわって探し求めた
あらゆる食の知識を盛り込んだ傑作である。
彼が「スイーツ」の項の1ページ目に載せたのが、
サヴォワ風ビスキュイ
欲望のままに生き、甘い生活を味わいつくした文豪デュマ。
そんな彼が最後に愛したのは、最小限の味付けを施した
スポンジケーキの優しい甘さだった。
佐藤理人 14年2月16日放送
Art meets Sweets ⑦ ヴェルディのコンポート
土地は裏切らない
オペラ「アイーダ」の作曲家、ヴェルディ。
手にした巨万の富で、彼は土地を買った。
豪邸を建てるためではなく、
農作物を育て、家畜を育てるために。
彼が作曲に行き詰ると、
妻のジュゼッピーナは採れたての洋ナシを
丸ごと赤ワインで煮た甘いコンポートを作った。
決して独りでは食事をしなかったヴェルディ。
最初の妻と2人の子どもを亡くした彼にとって、
食卓は愛情を味わえるかけがえのない場所だった。
佐藤理人 14年2月16日放送
Cremo
Art meets Sweets ⑧ コクトーのスミレアイス
食べてはいけないものが好き
常識に異を唱え続けた詩人らしく、
ジャン・コクトーはスイーツの好みも
一筋縄ではいかなかった。
お気に入りは、
スミレのアイスクリーム。
砂糖でコーティングした
スミレの花びらをバニラアイスに混ぜる。
紫の糖衣が割れるとバニラの甘さに乗って、
花の香りが口いっぱいに広がるという、
シンプルでありながら高貴な味わい。
彼にとってデザートは別腹ではなく、
正面から向き合うべきアートであった。