中村組・三島邦彦

三島邦彦 16年3月19日放送

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Xanadrew
もう会えないひと。 ヘンリー・デイヴィッド・ソロー

人生の中で、ふと、会わなくなってしまう友達がいる。
急に連絡がとれなくなったり、突然この世を去ってしまったり。

ヘンリー・デイヴィッド・ソロー。
19世紀のアメリカで産業社会に嫌気がさし、
森の中に建てた丸太小屋で2年2ヶ月、
一人きりで自給自足の生活をした思想家。

その暮らしの記録をまとめた本、
『森の生活』はエコロジー思想の先駆けとして、
今なお多くの人に読み継がれ、
ガンディーやキング牧師にも影響を与えたと言われる。

人との関わりを避け、孤独を愛した彼はしかし、
友情についてこう語っている。

 友人のために僕ができることは、ただ彼の友達でいることである。

もう会えない友達にも、いつまでも友達でいることはできる。
今いる友達に、何か特別なことをしなくても、友達でいることはできる。

一人で暮らしていた時にも、
ソローは一人ではなかったのかもしれません。

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三島邦彦 16年2月13日放送

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明日、2月14日。 谷川俊太郎

明日、2月14日。
バレンタインデー。

告白をすると決めたけれど、
失恋して傷つくのが怖いというあなたへ。

詩人の谷川俊太郎さんは、
たくさん恋をして、
たくさん恋にまつわる詩を書き、
3回も結婚した、恋の達人。

そんな谷川さんに、失恋の痛手は、どうやったら癒せるだろう?
と聞くと、こんな答えが返ってきました。

 失恋は恋人を失うことであっても、自分自身の恋する気持ちを
 失うことではない。恋人が離れていっても、恋は終わらない。
 恋は遠くにあって手に入らないものを求める気持ちなのだから、
 もともと孤独なものなのです。

明日、あなたの告白がうまくいきますように。
そして、もし失恋して、さみしくなったら、
谷川さんの言葉を思い出してみてください。

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三島邦彦 16年2月13日放送

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明日、2月14日。 深沢七郎

明日、2月14日。
バレンタインデー。

明日が楽しみでしょうがないという人もいれば、
明日なんて来なければいいのにという人もいるでしょう。

作家の深沢七郎は、
「人間滅亡的人生案内」という人生相談の中で、
恋に苦しむ相談者にこんなアドバイスをしています。

 生きてることは悲しいことだと思う必要はありません。
 生きてることは楽しいことだと思う必要もありません。
 ただ、ぼーっと生まれて来たのだから、
 ぼーっと生きればいいのです。

バレンタインデーを、
楽しむ人も、悲しむ人も、
深沢七郎のように、気軽に明日を迎えましょう。

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三島邦彦 16年2月13日放送

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Steve took it
明日、2月14日。 橋本治

「桃尻語訳 枕草子」で知られる作家、橋本治は、
1985年の冬、
「恋愛論」というタイトルで講演をした。

恋愛論というタイトルながら、
論を語ることはなく、
初恋は同級生の男の子という話から始まり、
自らの過去を吐露し続けた。

脱線に次ぐ脱線の中で、
小学生の頃に母親がいかに
自分を心配してくれていたかを話していた時、
突然話を止めてこう言った。

 ちょっと泣きます。

そしてしばらく泣いたあと、再び話をはじめる。
なぜ泣いていたのかは話さずに。
そのとても個人的な涙は、聴衆を驚かせ、
この講演を長く語り継がれるものにした。
橋本は言う。

 愛は一般論で語れるが、恋愛は一般論では語れない。
 それは、恋愛というものが非常に個人的なことだから。

明日は2月14日。バレンタインデー。
あなたはあなたの、あなただけの恋愛を味わってください。

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三島邦彦 16年2月13日放送

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明日、2月14日。 ラクロ

明日は2月14日。
バレンタインデー。

プレゼントのチョコレートに
ちょっとした手紙をつけようとしているあなたへ。

貴族たちの恋の駆け引きを手紙の形で描いた小説『危険な関係』の作者、
ラクロからのアドバイスです。

 わかっているでしょうが、
 手紙を書くのは相手に書くので自分に書くのじゃありません。
 だから自分の考えていることを言うよりは、
 なるべく相手を喜ばせることを書くようになさい。

明日のチョコレートには、
あの人が喜ぶような、
とびきり甘い言葉を添えてみてください。

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三島邦彦 16年1月23日放送

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Anna & Michal
土の話 アンリ・ジャイエ

「植物の中で、唯一ブドウだけが
 大地がもつ本当の価値を私たちに伝えてくれる。」

20世紀前半、フランスの小説家コレットはワインへの愛をこう語ったという。

コレットの言う通り、
ワインの原料になるブドウは、
それぞれの土地のあり方を繊細に反映する。
土に含まれるミネラルはもちろん、
水はけのよさ、標高、日照時間、
同じブドウ畑でも、
数十メートル離れただけで味は違ったものになる。

フランスワインの聖地ブルゴーニュ地方で
50年に渡り上質なワインを造り続けた伝説のワイン醸造家、
アンリ・ジャイエは自らの仕事をこう語る。

 私たちの仕事とは、
 自然の恵みを最高の形で引き出すことなんだ。
 素晴らしい豊かさが
 わずかばかりの土地に凝縮されているという事実を前にして、
 ブドウを育てる者はいつも、謙虚にして善良、
 かつ控えめでないといけない。

世界各地の醸造家による、
それぞれの土地のワインを通じて、
私たちは、この星の大地の豊かさを味わうことができる。

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三島邦彦 16年1月23日放送

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とみたや
土の話 光嶋祐介

乾いては塗り、乾いては塗り、
時間をかけて土を重ねる左官職人の手仕事。

完成までに時間がかかる土壁は、
建築のスピード化の中で
急速にその数を減らしている。

そんな中、
建築家の光嶋祐介さんは、
土壁の魅力をこう語る。

 部屋の空気を呼吸しながら、完成してもなお乾燥して
 新しい表情を見せてくれるのです。人間が歳を重ねると、
 しわが増えることで熟成された顔になっていくように、
 土壁もまた時間に耐えて味わいを増す立派な素材です。

よいものには時間がかかる。
シンプルで大切なことを、土の壁は教えてくれる。

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三島邦彦 15年11月28日放送

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Yuya Sekiguchi
編み物のはなし 御手洗瑞子(みたらいたまこ)

編み物と港町は縁が深い。
遠い昔、
魚を捕まえるための網づくりから編み物は発達し、
セーターは漁師たちの仕事着として編まれてきた。

遠洋漁業の港町、
宮城県の気仙沼。
ここに、気仙沼ニッティングという会社がある。

この町の人々が昔から親しんできた手編み物を
世界に誇れる商品にすることで
復興の途上にある気仙沼の人々に
確かな希望を作り出した。

気仙沼ニッティングの若き社長、
御手洗瑞子はこう語る。

 働くひとが「誇り」を感じられる仕事をつくりたい。
 お客様が「大切にされている」とうれしく感じられる商品をお届けしたい。
 そして世界中の人から素敵だと思われるものをつくっていきたい。

世界とつながる海を眺めながら、気仙沼ニッティングは進んで行く。

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三島邦彦 15年11月28日放送

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編み物のはなし 御手洗瑞子(みたらいたまこ)

気仙沼ニッティングは、手編み物の会社。
一着15万円のカーディガンに
全国から注文が集まる。

社長の御手洗瑞子が書いた
「気仙沼ニッティング物語」という本に、
こんな一節がある。

 気仙沼ニッティングではこれまで使ったすべてのロットの毛糸を、
 補修用にとっておいてあります。

 
お客様と一生をともにする物をつくること。
そのための準備をしておくこと。
その誇りと責任感が、さらに人を引きつける。

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三島邦彦 15年11月28日放送

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編み物のはなし アルベール・アンカー

スイスの国民的画家、アルベール・アンカー。

19世紀のスイスの
地方の暮らしを鮮やかに描いた。

にしても、編み物と少女の絵が多い。
たとえば、こんなタイトルたちだ。

「編み物をする少女」
「編み物をする二人の少女」
「バスケットを持って編み物をする少女」
「窓のそばで編み物をする少女」
「眠る幼児を見ながら編み物をする少女」

どの絵でも、
少女たちは目をふせ、一心に編み物をしている。

車の音も、ケータイの着信音もなかったころの
田舎の静けさが聞こえてきそうだ。

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