佐藤延夫 09年12月05日放送

01-higashiyama
 
「モーツァルトが遺したもの/東山魁夷(ひがしやまかいい)」

昭和を代表する画家、東山魁夷の作品「緑響く」。

そこに描かれているのは、
信州、奥蓼科にある御射鹿池(みしゃかいけ)の風景。

キャンバスを埋め尽くす緑の山々は水面に映り込み、
白い馬が一頭、ためらいがちに、ゆっくり歩を進める。

東山魁夷は、
モーツァルトのピアノ協奏曲ケッヘル488番第2楽章を聴いて
この情景が浮かんだそうだ。

森林は、オーケストラ。
白馬は、ピアノの旋律。

この世には、見て感動できるモーツァルトも遺されている。

今日、12月5日は、
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが亡くなった日。

02-tanigawa
 
「モーツァルトが遺したもの/谷川俊太郎」

詩人、谷川俊太郎の作品「ふたつのロンド」は、
自身の思い出話から始まる。

  六十年生きてきた間にずいぶんピアノを聴いた
  古風な折り畳み式の燭台のついた母のピアノが最初だった
  浴衣を着て夏の夜 母はモーツァルトを弾いた
  ケッヘル四百八十五番のロンド ニ長調
  子どもが笑いながら自分の影法師を追っかけているような旋律
  ぼくの幸せの原形

彼が詩の中に込めたもの。
それは、音楽がもたらす幸せにひそむ寂しさと、死だった。

優雅さの中に、悲しみがある。
だから私たちは、モーツァルトの曲を聴くのかもしれない。

今日、12月5日は、モーツァルトが亡くなった日。

03-nakahara

「モーツァルトが遺したもの/中原中也」 

  僕はもうバッハにもモーツアルトにも倦果てた。(あきはてた)

詩人、中原中也の作品「いのちの声」が発表されたのは、結婚した翌年のこと。
恋人の長谷川泰子とは、とうの昔に別れ、違う女性と一緒になっていた。

中也がモーツァルトを聴いていた、というのは有名なエピソードだが、
ある頃から、陽気な音楽にはもう飽きたよ、と漏らしていたそうだ。

長谷川泰子と別れた小林秀雄もまた、
モーツァルトの弦楽五重奏曲ト短調を聴いて、
「かなしさは疾走する」と評した。

モーツァルトの曲は、昔の恋を思い出させる魔法。
そんなふうに思えてしまう。

今日、12月5日は、モーツァルトが亡くなった日。

04-tachihara

「モーツァルトが遺したもの/立原正秋(たちはらまさあき)」

鎌倉から江ノ電に乗り
20分ほど揺られると、
腰越(こしごえ)駅に辿り着く。

ここは、作家、立原正秋が暮らした小さな街。
魚屋の店先を覗くのが、彼の日課だった。
鵠沼海岸に越したのちも
四季折々の魚を愛し、こんな文章を残した。

  ある朝十時に起きて酒をのんでいたら、
  モーツァルトのピアノ協奏曲ニ短調がきこえてきた。
  私は前夜の残りの鮟鱇を肴に酒を酌みながら、
  モーツァルトと鮟鱇はよく合う、と思った。

この冬、鮟鱇とモーツァルトの相性を試してみるのも良さそうだ。

今日、12月5日は、モーツァルトが亡くなった日。

05-abraham

「モーツァルトが遺したもの/アカデミー賞」

奇妙な笑い方をする、荒唐無稽なモーツァルト。
彼の才能を嫉む宮廷音楽家サリエリ。

この二人の人間模様を描いた映画「アマデウス」は、
第57回アカデミー賞のタイトルを8部門受賞した。

主演男優賞にノミネートされたのは、
モーツァルト役のトム・ハルスと
サリエリ役のフランク・マーリー・エイブラハム。

その栄冠に輝いたのは、
映画の中で、悔しそうな表情ばかり浮かべていた、
エイブラハムのほうだった。

モーツァルトを毒殺した疑いがかけられ、
悪役に仕立てられたサリエリも
このときばかりは、晴れやかな笑顔を見せた。

さてモーツァルト本人は、草葉の陰で何を思うやら。

1791年の今日、12月5日は、
モーツァルトが亡くなった日。

06-dufy

「モーツァルトが遺したもの/ラウル・デュフィ」

20世紀に活躍したフランスの画家、ラウル・デュフィは語る。

   私の眼は醜いものを消し去るようにできている

デュフィは、生涯にわたりモーツァルトを敬い、
彼をモチーフにした十数枚の絵を残している。

色彩豊かに描かれたデュフィの作品は、
美しく、また、奥深い。

モーツァルトの遺産は、パリで静かに眠っている。

今日、12月5日は、モーツァルトが亡くなった日。

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