小宮由美子 11年4月23日放送



イタリアの横顔① カメラマン

ローマのカメマン、リーノ・バリッラーリ。
人は彼を、<キング・オブ・パパラッツィ>と呼ぶ。

ゴシップ写真を専門とする職業柄、カメラを向けたスターたちから
暴力を受け救急車で担ぎこまれること160回。
憤ったスターたちにしょっちゅう壊されるから、カメラの機材はいつも新品。
そんなリーノが、これまでに世界に放ったスクープは数知れず。
身体を張った仕事ぶりはリーノ自身の存在を伝説化した。

取材相手から毛嫌いされるのが常だが、それだけでもないらしい。
パパラッツィは、イタリアのマスコミ界では真の意味でのフリーランスだ
命令されるボスなど必要ない、自分の勘だけを
頼りに生きる、孤独を愛する一匹オオカミ

そう賛辞を贈ったイタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニも
リーノが友情を育んだスターのひとり。

パパラッツィという仕事は、体を張った危険な仕事。
しかし生まれ変わってもまたぜひパパラッツィでありたい

そう語るリーノの伝説は、今日も続く。





イタリアの横顔② 靴磨き

ローマにある<ロザリーナの店>といえば、
美貌の女性、ロザリーナ・ダッラーゴの靴磨き専門店のこと。

もともと尋常ではない靴マニアだったという彼女は、
ある日、自分の靴を磨いてくれる名人を探しているうちに
自分がその名人になればいいのだ、と思いつく。そして
数か月後には、銀行から100万ほどの借金をして店を開けた。
靴に対する愛情に溢れた彼女の仕事は、
その美しい容姿と人柄も相まってたちまち話題になり、
高級ブティックが軒を並べる目抜き通りのそばにある<ロザリーナの店>
には、有名無名の人々が、ひきもきらずに訪れる。
最初は母親の仕事を恥ずかしがり、学校で親の職業を聞かれ
「靴関係です」と答えていたという子供たちも、
今は誇りに思ってくれている、とロザリーナは語る。
屈辱的な仕事などこの世の中にはなく、どんな仕事でも誇り高く
一生懸命やり遂げれば必ず成功する、ということもよく理解したようです








イタリアの横顔③ 泥棒

家の前に停めておいた車を盗まれ、悲嘆に暮れている人のところに
翌日、無事に車が戻ってきた。中にあった手紙には、
やむを得ぬ事情でお車をお借りしたこと、お許しください。
 お詫びのしるしに
」と、話題のオペラのチケットが2枚添えられていた。
なかなか洒落た泥棒じゃないか」と喜んで出かけ、
帰ってきたら、家の中は空っぽ。何から何まで運び出された後だった――。
これは、イタリアであったという本当の話。
作家・井上ひさしも、イタリアの泥棒に一杯食わされたひとり。
 ミラノ空港で、隙をついて盗まれた鞄に入っていたのは、
帰りの航空券に筋子のおにぎり、
古書などを買うためにせっせと貯めてきた現金や、大切なノート…。

……鞄を盗られてしまった
日本に電話をかけると、イタリア暮らしの長かった井上の妻は笑い出した。
イタリアを甘くみたわね
イタリアは職人の国よ。だから泥棒だって職人なんです
 妻は続けて、夫にこう助言した。
これからは緊張した表情で行動することね。
引き締まった顔の持主は決して狙われないというから






イタリアの横顔④ピアニスト

シチリアの最も由緒あるホテル、<サン・ドメニコ・パレス>。
そのピアノバーの専属ピアニスト、キコ・シモーネが愛されたのは、
彼の奏でる素晴らしい音色のせいだけではなかった。
  アメリカに夢中になった青年時代。彼が見たイタリアのギャングスター。
  ライフワークでもあったマラソンへの挑戦。そして出会った女性たち…。
銀髪に大きな眼鏡、スマートで優雅なこの紳士の身の上話は、
どんな小説よりも面白かったという。

非常に多忙でも、ホテルでの演奏は欠かすことがなかった。
これは、生涯現役でピアノを弾き続けた彼の、91歳のときの言葉。

これまで4度の結婚をしましたが、どうも5度目を
年内にすることになりそうな話もありまして…

(忙しくて)どうしても演奏できないときは、82歳になる妹が代役で
弾き語りしてくれるのです。私より、ずっと上手いんですよ






イタリアの横顔⑤ 生ハム職人

イタリアのベルルスコーニ首相は、1シーズンにたった4本。
ベネトンのルチアーノ社長は、2年も前から予約して、ようやく2本。
サッカー・イングランド代表監督ファビオ・カペッロでも、
1本買えるか、買えないか――。
これは、北イタリアの小さな町に住む、
ロレンツォ・ドスヴァルドが作る生ハムのこと。
<幻のハム><イタリアにおける文句なしの最高品>と絶賛され、
順番待ちのリストは長くなる一方だが、売りに出される生ハムの数は
年間たった1500本。どんな有名人であろうとも、
自分の順番が来るのをじっと待つしかない。お金を積んでもダメ。
生産規模を拡大することを、ドスヴァルドは頑なに拒む。
現状で満足です。少量生産だがイタリアで最高品質の、
無敵の生ハムを作れるほうが、ずっと誇り高いことだと思います

楽しく質の高い仕事をすることが、彼の幸せ。
そして、同じくらい大切なのが、妻や子どもたちと楽しい時間を過ごすこと。
大金を手にするのと、家族といい関係を保つのとどちらかを選べと
言われたら、当然迷わず、私は家族を選びますね

ドスヴァルドは、無敵の父でもある。





イタリアの横顔⑥市民

イタリア・ボローニャの市長選挙を前に、候補者定めの市民集会に
参加した作家・井上ひさしは度肝を抜かれた。
檀上の候補者に次々と質問を突き付ける市民は、まるで刑事。
汗をかきながら必死に答える候補者は、容疑者。
壮絶きわまりない討論が繰り広げられる会場は、取調室のようだったから。
このような市民集会を選挙まで重ねて、市民は候補者の質を見極める。
候補者は鍛えられ、市長にふさわしくなっていく。
「市民の皆さんは、彼を候補者として認めたのでしょうか」
井上がたずねると、イタリア人通訳はこう答えた。
「彼は、客席を一度も笑わせることができなかったでしょう。
まだまだ鍛える必要がありそうね」





イタリアの横顔⑦ ボローニャ人

1945年4月。
ボローニャの人々はナチスドイツをはじめとする占領軍に対して、
何度もデモをおこない、ストライキをうち、やがて彼らと戦って、
自力で街を解放した。
赤煉瓦でできた美食の町として知られ、イタリア人も憧れる
現在のボローニャは、たくさんの犠牲によって守られた。

「守るべきものとは」「空疎な言葉や抽象概念ではなく、
具体的な人間や、目に見える景色のことです。
どこの国の人間でも、人間や景色のためには立ち上がるはずです」
「こうしたことはみな、ボローニャの街並みから教わっているように思います」
ボローニャへの愛にあふれた紀行文の中に
作家・井上ひさしが残した言葉が、いまとくべつ、胸をうつ。

「日常を守れ」

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