名雪祐平 11年5月1日放送



シャガール 1

ピカソは、こう言った。

 私は探すのではない。
 見つけるのだ。

それに対して、シャガールは言った。

 この私、私は待つのだ。

いったい、何を。
それは愛の表現だったのかもしれない。

ロシア革命に失望し、
移住したパリではナチス侵攻があり、
亡命したアメリカで最愛の妻を
亡くした、シャガール。

画家は歴史の中を生き、
その時代に描いた愛を
いま私たちは
受け取っているのかもしれない。





シャガール 2

ロシア生まれの画家、
シャガールは22歳の時、
14歳のベラに出会い、恋に堕ちる。

労働者階級出身のシャガール。
一方、裕福な宝石商の娘で、
才色兼備のベラ。

家柄の差もあり、ベラの両親をはじめ、
結婚には猛烈な反対をされてしまう。

けっきょく、出会いから6年の歳月がかかり、
二人は結ばれた。

シャガールは、二人をモデルに
いくつもの絵を描いた。

空を飛ぶ花婿花嫁。

舞い上がる絶頂の気持ちが
キャンバスからあふれそう。







シャガール 3

ロシアの貧しい事務員の息子として
生まれた、マルク・シャガール。

父と同じような職業につくこと。
それが当時の階級社会の
習わしだった。

 ママ、ぼく、画家になりたいんだ。

息子の希望に、母はこう言った。

 ママはあなたに才能があると
 信じているわ。
 でも、もしかすると、
 事務員という職業があなたには
 合っているかもしれないと
 思うのよ。

才能を認めてもなお、
母親は、平凡で幸せな人生を望んでしまう。

それでも息子はあきらめず、
母親を説得し、絵の塾に通わせてもらうことで、
事務員への運命を避けることが
できたのだった。





シャガール 4


シャガールは、
76歳の時にパリ・オペラ座の
天井絵の依頼を受けた。

納得いくまで何度もやり直したという。
うまく描けないといって、
声をあげて泣くほど鬼気せまる姿があった。

何歳になっても、大御所になっても、
既存の方法への敵意を常に持ち続けた。

“敵意”というほどの強烈なエネルギー。
だからこそ生まれた傑作の数々。

 まず感動することだ。
 感動がないなら、やめたほうがよい。

97歳で亡くなるまで、
その姿勢を貫いた天才だった。





サガン 1

その小説は、
こんな書き出しではじまる。

 ものうさと甘さがつきまとって
 離れないこの見知らぬ感情に、
 悲しみという重々しい、
 りっぱな名をつけようか、私は迷う。

作者はパリの18歳の女子大生、
フランソワーズ・サガン。
処女作『悲しみよ こんにちは』である。

1952年の初版は、わずか三千部。
それから部数を伸ばしたのは、
皮肉にも、その新しい文体に猛反対した
批評家たちのせいだった。

批評が、分別くさい大人の意見であればあるほど、
「小娘の小説」と反対すればするほど、
逆にサガンの新しさ、瑞々しさを証明することになり、
人々は興味津々になった。

それは、サガン自身が
時代の主人公になっていくという、
ストーリーの書き出しでもあった。





サガン 2

フランソワーズ・サガンの
『悲しみよ こんにちは』は、
フランスで100万部、
それから25カ国以上に翻訳され、
500万部の大ベストセラーになった。

時代の寵児となった18歳に、
大人の質問は退屈だった。
大金持ちになった感想とか、
ワンパターンにおちいった質問ばかり。

サガンはこんな言葉を返した。

 お金は持っている側だけでなく、
 持っていない人をも支配してしまいます。

お見事。





サガン 3

フランソワーズ・サガンは、
まるで自分の小説の登場人物のようだった。

22歳の時、
愛車アストン・マーチンで転落事故。
「サガン即死」というニュースが
流れるほどの瀕死の重傷を負う。

23歳の時、20歳年上の男と結婚。
ルーレットで8に賭けて
800万フランを当て、別荘を購入。

酒、麻薬、ギャンブル、クルマ、
そして男にのめり込んだ。

肉体的にも精神的にも、
過剰なものがあると休まる。

と語ったサガン。

それは深い孤独を埋めるための
過剰だったのだろうか。





サガン 4

科学的に、考えよう。
合理的に、考えよう。

でも、いつのまにか
人の心がないがしろになっていないだろうか。

フランソワーズ・サガンは警告する。

 思いやりのない頭の良さというのは
 なんとも危険な兵器よ。

合理的に考えた時の、
選ばれる何かと、
切り捨てられる何か。

その両者の間を
私たちはどれだけ思いやり、
埋めることができるだろうか。

この、不安定な時代にこそ。

文学的に、考えよう。

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