2012 年 5 月 20 日 のアーカイブ

茂木彩海 12年5月20日放送

B.B
植物のはなし カレル・チャペック

4月に生まれた私の母は、50歳の誕生日を迎えたその日に、
突然ガーデニングに目覚めた。

真っ白な植木鉢に
真っ黒な腐葉土。
そこにお気に入りのピンクの花の苗を
大事そうに植えるその姿を見て、
ああ、そろそろ春だな、と娘は思う。

趣味が園芸だった劇作家、カレル・チャペックに言わせると、
4月はこれこそ本格的な、恵まれた園芸家の月」であり、
とにかく、自身でふかふかした土を指でほじくってみるといい」らしい。

母はきっと、その魅力を知ってしまったのだろう。




jiroh
植物のはなし 塚本こなみ

はじめて診察したのは、700歳の松の木だった。

日本ではじめて、木のお医者さんになった女性。塚本こなみ。

造園家の夫を支えるかたわらで、
男性が多い現場を不思議に思い、
女性の目で植物と向き合うべく15日間の長い試験の末に、
樹木医となった。

そんな塚本は、
人間が植物を守ろうとか、おこがましいことを言わないでほしい
と、語る。

自然を守ろう。その言葉が使われれば使われるほど、
私たちは木に守られている、という事実が薄れていく。

もの言わぬ樹木が相手だからこそ、その無言の声を受け止める。
その言葉のない会話こそが、樹木医の原点なのかもしれない。

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小野麻利江 12年5月20日放送

Jude Doyland
植物のはなし 狐野扶実子 春のニンジンのスープ

切れない包丁で皮をむしりとったように切っては、
ニンジンが、かわいそう。


出張料理人として世界の要人たちをうならせ、
<フォション>のエグゼクティブシェフを
つとめたこともある料理人・狐野扶実子。

人間にとって心地のいい料理をつくるためには、
食材も心地よくいられるよう
やさしく扱わなくてはいけない。
それが彼女の、料理のやり方。

少しだけミルクの香りがする、春の赤ちゃんニンジン。
その皮をそっとむいて、
玉ねぎの薄切りといっしょに、大切に大切に、火を通す。
沸騰させると味が抜けてしまうから、
その直前くらいの、火加減で。

ニンジンがやわらかくなったら、
バターを加えて、煮汁ごとミキサーへ。

仕上げとしてスープの上に、
バニラの香りをうつしたオリーブオイルを、たらり。

彼女がつくる春のニンジンのスープは、
食べる人間と、食べられるニンジンのことが
同じくらい大切に、想われている。



うちのポチ
植物のはなし 高橋順子 よもぎの葉をつむ時間

よもぎの葉の裏は白い

詩人の高橋順子は子どものころ、
よもぎの葉をつみにいくたびに
くりかえしくりかえし、祖母にそう言われた。

よもぎの葉の裏は白い

そう教えてくれた祖母も、今はもう亡く。
子どもの時間が二度とこないことを
高橋は、ひとりの野原で感じとり、こううたう。

もう間違えることができない
よもぎの葉は白い裏

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熊埜御堂由香 12年5月20日放送

さんたす
植物の話 大江健三郎の生まれた森

なぜ学校に行かなければならないのだろう。
そう思い、10歳の少年は学校の裏門を抜け森へ入って
毎日を過ごしていた。

ノーベル賞作家大江健三郎は愛媛県の森林の村で生まれた。
大江が不登校になった年。日本は戦争に負けた。
世の矛盾を敏感な少年は感じていた。
森の中で樹木の性質を学べばひとりで生きていける。
林業を営む父の姿をみてそう考えた。

しかしある日、
森で強い雨に打たれ生死の境をさ迷う。
僕はもう死ぬの?うなされ尋ねると
母親がこう答えた。
私がもういちど産んであげるから、大丈夫。

わけがわからないと思いながらも
静かな心になった少年はこんこんと眠り
回復したら自然と学校に通いはじめた。

それ以来こう思うようになった。
今生きている自分は母にもういちど産んでもらった
新しい子供なのではないか?

少年は森で、もういちど生まれた。
そして森をでて社会の中で生きはじめたのだ。

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石橋涼子 12年5月20日放送


植物のはなし 牧野富太郎の情熱

最終学歴、小学校中退。
独学で研究を続け、
植物学の父と呼ばれるまでになった牧野富太郎。

東京帝国大学の講師になっても、
理学博士号を授かっても、
野山をかけずり回って標本採集をするのが趣味だった。

どんなに貧しくても、珍しい植物を求めては旅に出た。
借金取りが押しかけて来ても、平然と植物の標本をつくっていた。

95歳で亡くなるまで少年でありつづけた植物博士の残した言葉。

草をしとねに 木の根をまくら 花に恋して90年





植物のはなし 牧野富太郎の感謝

植物博士、牧野富太郎の名付けは明快だ。
どこにでも生える図太い植物だから、ワルナスビ。
むじなの尻尾に似ているから、ムジナモ。
わかりやすさこそが、学問に必要なこと。

ただ一度だけ、例外がある。
貧しい生活を支え続けてくれた妻が亡くなったとき、
発見した笹にこの名を付けずにはいられなかった。
命名、スエコザサ。

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薄景子 12年5月20日放送

Jaanus Kalju
植物のはなし 斉藤吉一

花に逆らわず、花に従わず、花のするように生きる。

庭師であり、作家である
斉藤吉一(よしかず)はそう語る。

植物も生きているのだから、思いどおりには育たない。
だからこそ、肩の力を抜いてガーデニングを楽しもう。
そんなメッセージをこめた著書、
「ものぐさガーデニングのススメ」は、
園芸書を超えた“人生の書”としてベストセラーになる。

しかし出版後、書いた本人が、
肩の力の抜き方がわからなくなってしまう。
自分自身を見失い、やがて廃業寸前に。
歳月をかけて立ち直った庭師は、
木について、こう語る。

今ある姿が、その木らしさ。
経験と傷こそが個性です。





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