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キングの道具箱①「誕生日」
ドライバー1本で足りるのに
なぜ道具箱を持ち歩くの?
少年は叔父に尋ねた。
ネジを閉めながら叔父は答えた。
急に必要になったとき、
手元にないと困るだろ?
少年は30年後、
モダンホラーの帝王
と呼ばれるベストセラー作家になった。
「スタンドバイミー」「グリーンマイル」
「ショーシャンクの空に」など、
数々の名作で知られる彼の名は、
スティーブン・キング。
彼は著書「書くことについて」の中で、
物書きに必要な物もまた、
自分専用の道具箱
だと言う。
今日で66歳になるキングだが、
その創作意欲は一向に衰えない。
きっと彼の道具は、
今もサビひとつなく
ピカピカに違いない。
2013 年 9 月 21 日 のアーカイブ
佐藤理人 13年9月21日放送
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱②「受動態と副詞」
道具箱の一段目には、
普段最もよく使う物が入っている。
作家の場合、それは
語彙と文法
だ。
基本的には手持ちのものを使えばいい。
言葉を無理に飾ろうとすれば、
却って恥をかくだけだ。
ただし、とスティーブン・キングは続ける。
受動態と副詞は臆病者の好物である
言い回しが単純すぎはしないだろうか。
読者に分かりにくいのではないだろうか。
下手な文章の根底には、
大抵この手の不安がある。
しかし実際はどちらも文章を、
複雑で間延びさせるだけに終わる。
彼は言う。
小説はテストやレポートじゃない。
他人の目に自分の文章がどう映るか
なんて気にするべきじゃない。
簡潔に、ありふれた物言いは避け、
自信をもって能動態で書き進めること。
後は読者が勝手に想像してくれる。
それこそ読書の醍醐味なのだから。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱③「段落」
作家スティーブン・キングが考える
物書きの道具箱の二段目にあるもの。
それは、
段落
だ。
多くの日本人は段落について
改行程度の認識しか持たない。
元々日本語には存在しない
文法なので無理もない。
しかし段落には明確なルールがある。
一つの段落では一つの事柄だけを述べ、
冒頭ではその要約を述べること。
キングは言う。
その本が読みやすいかどうかは、
中身を読まなくても分かる。
一段落が短く、余白が多い。
しかし、その後でこう付け加える。
言葉は無理に
ネクタイを締めなくてもいいし、
ドレスシューズを履かなくてもいい。
大事なことはルールよりリズム。
言葉の鼓動に耳を澄ませること。
佐藤理人 13年9月21日放送
Darren W
キングの道具箱④「読むこと」
三流は一流になれないし、
一流が超一流になることもない。
しかし二流が一流になることはできる。
作家スティーブン・キングは言う。
必要なことが2つある。
たくさん読み、
たくさん書くことだ。
彼が考える物書きの道具箱。
その最後の段には何もない。
あとは実践あるのみだ。
しかし書くためには、
読まなければならない。
読書は作家の創作活動の中心にある。
読む時間がないのに、
どうして書く時間がとれるだろう。
キングが考える作家の最大の敵。
それは、
テレビ
だ。彼曰く、
テレビは時間をとりすぎる。
テレビを切れば文章だけでなく、
人生の質も上がる。
どうやらインターネットにも、
同じことが言えそうだ。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑤「ドアを閉める」
傑作を書くのに、
雑誌に出てくるような
オシャレな部屋は必要ない。
高級な机も文房具もいらない。
必要な物はただ一つ。
ドア
だ。
スティーブン・キングは言う。
夢は寝室だけで見るものじゃない。
作家にとって書斎は、
八時間たっぷり
創造的睡眠をとる場所だ。
そのためにはドアを閉め、
外のノイズをシャットアウトすること。
うるさくてはいい夢は見られない。
それは、白昼夢にも当てはまる。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑥「ストーリー」
物語とは地中に埋もれた化石
のようなものだ
スティーブン・キングは言う。
作家は道具箱を使って
化石をできるだけ完全な形で
掘り出さなければならない。
すべての物語には固有の形がある。
しかしどんな形をしているかは、
掘り出してみるまでわからない。
大切なのは形に逆らわないこと。
作家の仕事はストーリーに成長の場を与え、
それを文字にすることだ。
私は主人公を窮地に立たせ、
どう脱出するか見守っているだけだ。
小説は単にその成り行きを、
書き留めたものに過ぎない。
書いている本人にも結末はわからない。
予め筋書きを立てることにも
キングは懐疑的だ。
そもそも人生に筋書きがあるかい?
仏師の円空は
木に棲む仏像を取り出した
と言い、彫刻家ミケランジェロは
石に囚われた天使を自由にした
と言った。
古今東西、創造とは即ち、
美の発見のことらしい。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑦「ドアを開く」
ドアを閉め、作品を書き上げたら、
作家が次にすべきことは何か。
それは、
ドアを開けること
つまり、人に見せることだ。
自分が心から信頼できる誰か。
スティーブン・キングはそれを、
理想の読者
と呼ぶ。
彼の場合は妻のタビサだ。
彼女の意見を聞くことでキングは、
読者の退屈や混乱を回避する。
しかしそれ以上に彼は、
彼の書いたものを読んで笑う
妻の顔を見るのが大好きなのだそうだ。
すべての小説は、
ひとりの人に宛てた手紙
と言われる。
世界で最も売れている小説家の一人、
スティーブン・キング。
彼は結婚して40年以上経つ今も、
世界一高価なラブレターを
妻に贈り続けている。