名雪祐平 10年05月30日放送



山田無文

人生の目的は
人格の完成にある、という。

ただ、
昭和の禅の名僧、山田無文は
こう続ける。


 その人格は既に生まれた時に
 完成されている。

すると、修行とは
生まれたままの姿に近づくこと。

赤ん坊は、無心で
南無阿弥陀仏
と、泣いているのだろうか。



寺山修司


 僕は物語を中断してしまわないと気が済まない。
 完結してしまうと観客の中に余白が残されない。
 常に物語は半分作って、
 あとの半分は観客が作って一つの世界になっていく。

そう。
寺山修司は見事なまでの劇作家だった。
47歳で世を去り、わたしたちは観客のまま
余白を生きている。
いつまでも完結できない物語のなかで。

いまこそ寺山に批評して欲しくて
たまらない。

劇のような、いまの世を、鋭く。



藤間紫

日本舞踊家、藤間紫。

12歳で日本舞踊藤間流に入門。
天才少女と呼ばれた。

21歳には名取となり、
24歳年上の師匠と結婚。

40歳を過ぎ、
16歳年下の歌舞伎俳優・市川猿之助と
暮らし始める。

二人が正式に結婚できたのは、
紫76歳、猿之助60歳の時だった。

インタビューで
紫が言った言葉がある。

それは人生後半の言葉だが、
生涯を精いっぱいに生きてきた彼女なら、
何歳であっても、
この言葉を美しく言っただろう。

 女の幸せは今なんです。



市川猿之助

12歳の少年の初恋は、
28歳の人妻だった。

歌舞伎の市川猿之助と、
日本舞踊家の藤間紫。

大人になった猿之助は
別の女性と結婚するが、
心には紫があり、極秘に交際を始める。

やがて30年以上が過ぎ、
それぞれの離婚を経て、
やっと、やっと、二人は結婚する。
夫60歳、妻76歳。

9年後、妻が85歳で亡くなった時、
しみじみと猿之助は語った。


 紫さんは少女のようでした。

初恋の人は、
ずっと初恋の人であり続けたに
ちがいない。



グレダ・ガルボ

もの凄い美貌の女優が
魅力的に笑う。

世界中の男たちは、イチコロ。

けれど、
「笑わない女優」と呼ばれながら
ミステリアスな美貌で人気をあつめた
伝説的女優がいた。

グレダ・ガルボ

彼女が20数本目の映画で、
始めて笑顔を見せたとき、
こんなキャッチフレーズが採用された。

「ガルボが笑う」

しかし、その後ほどなく36歳で引退し、
84歳で亡くなるまで
マスコミを嫌い、一切の姿を現さず、
公の場から消えた。

笑顔も、キャッチフレーズも、何も残さずに。



山田太一

「うん」

山田太一脚本のドラマで、
印象的に使われる、相づち。

「うん」

迷いや抵抗も含みながら、
でも、相手との関係をつくろうと
声を出しているようにも聞こえる。

「うん」


 短い間だれかに夢中になれるということは
 だれにでもある。しかし、
 長くひとりの人間を愛しつづけるということは、
 ほっといてできることではない。

山田のこんな言葉が響くのは、
それがあたりまえでなくなったからだろうか。

とりあえず、相づちから始めるのも
きっといい。そう思う。



前畑秀子 浅田真央

日本女性初のオリンピック金メダリスト、
前畑秀子。

ベルリン大会
水泳女子200m平泳ぎ。
日本を熱狂させた「前畑がんばれ!」

しかしその4年前のロサンゼルス大会で
前畑が同種目で
銀メダルは獲得していたことは
今ではほとんど知られていない。

2014年オリンピックはロシア・ソチ大会。
浅田真央の記憶を刻みたい。

彼女の素晴らしい功績を
100年後に人々にも伝えたいから。



最期の言葉

アイスクリームを食べたい。
国木田独歩

なにか飲物をくれ。
ピカソ

もっとシャンパンを飲んでおけばよかった。
ケインズ

最期の言葉は、これでいいのだと思う。
偉い人も、そうでもない人も
名言を残さなくていい。

これまで、たくさん良い言葉を
もらったのだから。

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