2010 年 6 月 13 日 のアーカイブ

中村直史 10年06月13日放送



登場人物たち/ホールデン・コールフィールド
(JDサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』)

この小説の主人公は、自分なのではないか。
生きた時代も、場所も違う。
へりくつの多い困ったヤツなのに、
やっぱり自分と同じような気がしてしまう。

60年以上もの間、
世界中の人をそんな気分にさせてきた少年、
ホールデン・コールフィールド。
小説「ライ麦畑でつかまえて」の主人公だ。

ホールデン少年は、やりたい仕事について夢想する。
それはお医者さんとか、パイロットとか
そういったたぐいのものではない。

たくさんの子どもたちが駆け回る
広いライ麦畑で、ただただ、子どもたちを守る仕事。

僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、
その子をつかまえることなんだ。

2010年1月、「ライ麦畑でつかまえて」の作者
サリンジャーは、91歳でこの世を去った。
けれど、ホールデン少年は年をとることもなく、
世界中の人の心の中で生きつづけている。



登場人物たち/混沌
(中国に伝わる神話)

中国に伝わる神話に、
こんなお話がある。

地球がまだ赤ん坊だったころのこと。
「混沌」という名前の神さまがいた。

混沌の顔は
のっぺらぼうだったため、
これはいけない、と思ったほかの神さまたちが
目、鼻、口となる
5つの穴を、その顔に開けた。
すると、そのとたん、混沌は死んでしまった。

自然に手を加えてはいけない
と読み取るか。
自然に手を加える誘惑から逃れることはできない
と読み取るか。

混沌は、私たちに、
何を伝えようとしているのだろう。

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三島邦彦 10年06月13日放送



登場人物たち/パン屋さん
(レイモンド・カーヴァー『ささやかだけれど、役に立つこと』)

名前を持たない登場人物が、
世界を少し救ってくれることもある。

アメリカの作家、レイモンド・カーヴァーの小説
『ささやかだけれど、役に立つこと』。

そこに登場するパン屋さんが
子どもをなくしたばかりの夫婦にこう言った。


 こんなときには、ものを食べることです。
 それはささやかなことですが、助けになります。

パン屋さんは、作ったパンで、世界を助けている。



登場人物たち/ハムレット
(シェークスピア『ハムレット』)

生きるべきか。死ぬべきか。

悩み多き青年ハムレット。
シェークスピアが描いたこの有名な主人公は、
自分の身の振り方を悩んでいるだけではない。

劇中、ハムレットは旅芸人に演劇論を語る。
そのセリフの中には、
この『ハムレット』を演じる世界中の役者たちへの演出ともとれる言葉が
含まれている。


 動作をセリフに合わせ、セリフを動作に合わせるのだ。
 その際特に注意すべきは、自然の節度を越えないこと。
 何であれやりすぎれば、芝居の目的に反する。

自分がどう演じられるのかまで心配をする。
ハムレットの悩みは、深い。



登場人物たち/ヴラジミール
(サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』)

ドラマティックな仕事。
ドラマティックな友情。
ドラマティックな恋愛。

ドラマのような出来事なんて、そうめったには起こらない。

けれども、主人公が最初から最後まで退屈をし続けるドラマも、この世にはある。

ノーベル賞作家、サミュエル・ベケットは、最初から最後まで
暇をもてあます二人の劇を描いた。

それは、演劇の世界に、不条理劇という新しい概念をもたらす静かな革命だった。

演劇『ゴドーを待ちながら』。
主人公ヴラジミールとエストラゴンは、ただひらすら、ゴドーという人物を待ち続ける。
そして、ゴドーは結局最後まで現れない。

ヴラジミールは言う、


 運悪く人類に生まれついたからには、
 せめて一度ぐらいはりっぱにこの生き物を代表すべきだ。どうだね?

ヴラジミールとエストラゴン。
この二人の登場人物は、今日も世界のどこかで、
人類を代表して暇をつぶしている。



登場人物たち/ジュリエット
(シェークスピア『ロミオとジュリエット』)

数え切れない物語があって、
数え切れない登場人物たちがいる。
彼らは数え切れない恋をする。
けれど、恋する主人公の女性代表は、今も昔もジュリエット。


 おおロミオ!どうしてあなたはロミオなの?

 名前が一体なんだろう?
 私たちがバラと呼んでいるあの花の、名前がなんと変わろうとも、
 香りに違いはないはずよ。

恋におちると、人は哲学をはじめる。
どんなに若い二人でも。

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三國菜恵 10年06月13日放送



登場人物たち/源静雄
(藤子・F・不二雄『のび太の結婚前夜』)

夜、ひとりでいると、
さびしさがふっと訪れる。

源静雄(みなもとしずお)は、
結婚式を明日にひかえ、
自分と離れることをさみしがる娘にこう言った。


 少しぐらいさびしくても、思い出があたためてくれるさ。

娘に言っているのか、
自分に言っているのか、わからなかった。

次の日、娘は、おさななじみの、のび太くんと結婚した。



登場人物たち/安倍昌子
(いくえみ綾『私がいてもいなくても』)

人気漫画家・いくえみ綾(りょう)が描いた
「私がいてもいなくても」。
その主人公、18歳の安倍昌子(あべしょうこ)は
タイトルを体現したような女の子だ。

昌子は偶然再会した同級生・真希の仕事を手伝うことになる。
フリーターの自分。売れっ子漫画家の彼女。
サイン会でたくさんの人が押し寄せる中
昌子は思う、
真希がまぶしい。自分にはなんもない。

二人は大きなケンカをした。
そして気づく。

昌子は真希の才能がうらやましかった。
真希は昌子の明るさがうらやましかった。
昌子は思う、


 私は 欲しいものだらけだったけど
 知らないうちに
 誰かに 何かを
 与えているのかもしれない

「私がいてもいなくても」
なんて思っている人は、きっと間違っています。

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