2015 年 4 月 のアーカイブ

蛭田瑞穂 15年4月12日放送

150412-07
t.shigesa
花とことば⑦ 井伏鱒二

唐の時代の詩人、于武陵の「歓酒」は
別れの悲しみを詠った詩。

その一節、
「花発(ひら)けば風雨多し 人生別離足る」を
作家の井伏鱒二はこう訳した。

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ
 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

春は出会いと同時に別れの季節でもある。
桜が少しだけ物悲しいのはそのせいかもしれない。

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蛭田瑞穂 15年4月12日放送

150412-08
aoryouma
花とことば⑧ 梶井基次郎

 櫻の樹の下には屍体が埋まっている!

これは梶井基次郎の短編小説
『櫻の樹の下には』の冒頭の一節。

主人公の語り手にとって、
爛漫と咲き乱れる桜はあまりにも美しすぎる。
その美しさが彼を不安にさせる。

そこで彼は想像してみる。
すべての桜の木の下に屍体が埋まっていると。

腐乱した屍体を養分にして桜は美しい花を咲かせる。
そう思うことで彼は心の均衡を取り戻す。

春。
いっせいに咲き、いっせいに散る桜に、
日本人は死のイメージさえ重ねる。
日本人にとって桜ほどとくべつな花はない。

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福宿桃香 15年4月11日放送

150411-01

ヴィクトリア女王

1837年。
弱冠18歳にしてイギリスの女王となったヴィクトリアは、
いとこのアルバートにひとめで恋に落ち、
すぐに結婚を決意してしまった。

王族の恋愛結婚が珍しい時代。
自らの思いを貫いた彼女が選んだウェディングドレスは、
王室の伝統にのっとったきらびやかなものではなく、
白いサテンのシンプルなドレス。
飾らず、誠実で、純粋。
まさに彼女の人柄を象徴する結婚だった。

晴れて夫婦となった後も、
アルバートを生涯愛し続けたヴィクトリア。
そんな女王の生き方に憧れた女性たちのあいだに、
純白のウェディングドレスを着る
習慣が広まっていった。

生涯、この人と添い遂げたい。
今日も世界中の花嫁たちが
ヴィクトリアと同じ願いを身にまとう。

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村山覚 15年4月11日放送

150411-02
小帽(Hat)
荒木経惟

1968年のとある日。
広告代理店の写真部で働いていた男が
同じ会社に勤める女性を撮影しながら言った。

 あ、笑わないで。
 さっきのムスーッとした表情の方がいい。

男の名は荒木経惟。当時27歳。
後に天才・アラーキーとして日本を代表する写真家になる男は、
ムスーッとした7つ年下の女性にひとめぼれした。

 私の人生は陽子との出会いからはじまった。

そこまで言い切った彼は、
妻・陽子との新婚旅行や日常を写した作品を発表しつづけた。
それは、ひとめぼれで始まった恋が愛に変わり、
別れの瞬間を迎えるまでのセンチメンタルな記録。

アラーキーは言う。

 「永遠」っていう言葉は好きじゃないけど、
 どれだけ相手と「愛ノ時間」をもてるか、
 そこだね、写真って。

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上遠野茜 15年4月11日放送

150411-03
Daniel Staemmler
ティム・バートン

その瞬間、映像を一時停止するように
世界のすべてが、ぴたり、と止まった。

静まり返ったサーカス会場で、
動いているのは主人公ひとりだけ。
飴細工のように固まった炎をかわし、
道化師の輪をくぐり抜け、
空中で浮いたままのポップコーンを手で払い落としながら
彼が歩み寄った先には、美しい女性の姿があった。

ティム・バートン監督の映画「BIG FISH」のワンシーン。
主人公が運命の人に出会ってひとめぼれするさまを、
ハリウッドを代表する鬼才は
時を止めることで鮮やかに表現してみせたのだ。

バートンは、あるインタビューでこんな言葉を残している。

「僕に未来はない。あるのは今だけだよ」

この一瞬を愛することができるなら、
人生はもっと素敵になるはずだ。

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藤本宗将 15年4月11日放送

150411-04

チェ・ゲバラ

革命家というものは、やはり情熱的なのだろうか。
キューバ革命の英雄チェ・ゲバラは
ゲリラに志願してきた女学生にひとめぼれをした。
のちに妻となるアレイダ・マルチ。

あるときゲバラが腕を骨折すると、
アレイダは持っていたスカーフで彼の腕を吊って手当てした。
それがよほど嬉しかったらしい。
ゲバラはのちにこう書き残している。

絹のスカーフ。これは特別なものだ。
腕を怪我したのではないかと彼女がくれた。
愛のこもった包帯として。
厄介なのは、僕が頭を割られたときの使い道だ。
だが、いい方法があった。
頭に巻いて顎を支えれば、
そのままスカーフとともに墓に行ける。
死んでも忠実でいられる。

その後ゲバラは新たな革命をめざし単身ボリビアに渡るが、
捕えられて命を落とす。
死後30年してようやくキューバに戻った遺骨のそばに、
妻はそっとスカーフを納めた。

最後まで、愛と革命に忠実な人生だった。

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佐藤理人 15年4月5日放送

150405-01

作家たちの副業① 「エリオット」

詩人T.S.エリオットの副業は銀行員だった。

通勤する大勢のサラリーマンを見て、

 白アリの群れ

と笑い、自分の職場について

 死ぬまでここにいると思うとゾッとする

と嘆いたが、
内心では定職があることに感謝していた。
文学仲間が独立資金の提供を申し入れたときも、
仕事がもたらす安定を選んだ。

1948年。定年を迎えた年に、
彼はノーベル文学賞を受賞する。

金のために書くのではない。

仕事柄、お金の価値を知り尽くしていたからこそ、
彼は決して自分を安売りしなかった。

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佐藤理人 15年4月5日放送

150405-02

作家たちの副業② 「メルヴィル」

作家ハーマン・メルヴィルの副業は農家だった。

広大な畑に面した書斎の窓から見える景色は、

 まるで大西洋を進む船から
 外を眺めているようだった

代表作「白鯨」はこの部屋で生まれた。

冬の夜、風のうなり声を聞きながら
畑に降り積もる雪を見ていると、
白くて巨大な何かに
世界が吸い込まれていく気がした。

それはエイハブ船長ら乗組員が、
物語の最後で鯨のモビーディックに倒され、
海に飲み込まれていく様に少し似ていた。

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佐藤理人 15年4月5日放送

150405-03

作家たちの副業③ 「アシモフ」

SF作家アイザック・アシモフの副業は
お菓子屋さんだった。

父親が経営する何軒もの店を
彼は大人になるまで手伝った。
営業時間は朝の6時から夜中の1時まで。
休みはない。

 私は今も、これからも、
 ずっとあの菓子屋にいる

幼い頃、体に刷り込まれた一生懸命働く歓びが、
作家になった後も彼を突き動かし続けた。

なぜ休むより働く方が好きなのか。
それはサイエンスでは解けない謎だった。

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佐藤理人 15年4月5日放送

150405-04

作家たちの副業④「ダーウィン」

生物学者チャールズ・ダーウィンの副業は
地質学者だった。

ヒトはサルから進化した。
そんな話が19世紀のイギリスで
受け入れられるはずがない。

学会から追放されるだけでなく、
教会から断罪されるかもしれない。

だから彼は身分を偽った。
地質学に関する本を何冊も書き、
科学界で信用を高めることに努めた。

1859年、ついに「種の起原」を出版。

 最も強い者が生き延びるのではなく、
 最も賢い者が生き延びるのでもない。
 唯一生き残るのは、変化できる者である。

「進化論」は、初めは激しく批判されたが、
次第に受け入れられ始めた。

世の中が進化するまでに、
彼は30年近く待たなければならなかった。

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