大友美有紀 16年10月2日放送

161002-09
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「作家と本」長嶋有・増刷

芥川賞作家・長嶋有は、ある講演会の際、
自著にサインと「好きな言葉」を書いてくださいと頼まれた。
長嶋は、ほんとうにいいんですね、念を押し、
「増刷」と書いた。書いてみると思った以上に間抜けだったので、
小さく「したい」と書き添えたら、もっと間抜けになってしまった。

 僕に限らず、あまねく作家が本当に一番好きであろう言葉。
 それは「増刷」だ。
 本というのは一冊だけ読んでおしまいという人間はほとんどいない。
 一冊の本を読んだ時、その人は別の本を手に取る可能性を
 もう持っている。いつか僕の本に巡り会うかもしれない。

「本」という言葉をそのまま「世界」に置き換える。
豊穣なのも、貧しいものも含め、本とはすべて一つの世界である。
増刷は、それがたとえ千部、百部単位の小さなものであろうとも、
世界の広がるさまを感じさせるものなのだ。

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