2016 年 10 月 23 日 のアーカイブ

松岡康 16年10月23日放送

161023-01

麗子像

横につぶれたような輪郭と日本人形の様なおかっぱ頭。
糸の様に切れ長の目で不気味な笑みを浮かべている。
岸田劉生作、麗子像。

日本で一番有名な少女の肖像画をみて、
不気味だと思う人は多いかもしれない。

劉生は20代前半で巨匠デューラーに傾倒し、写実の追及を始めた。
娘の麗子が生まれると、実に16年にもわたって彼女を描き続けた。

そして気が付く。
写実の持つ均衡を少しだけ崩すことで、不思議な美しさが生まれることに。

不気味な少女の画をじっと眺めていると、
怖さだけではない美しさが見えてくる。

topへ

奥村広乃 16年10月23日放送

161023-02

ショパンの肖像

愛は消えても、
愛し合った事実は消えない。
では、その記録はどうだろうか。

ピアノの詩人とよばれるフレデリック・ショパン。
そしてその恋人、ジョルジュ・サンド。
二人の同棲生活は、10年も続かなかった。

画家のウジェーヌ・ドラクロワは、
恋に落ち、惹かれ合いはじめた二人の油絵を描いた。
ショパンのピアノにうっとりと聞き入るサンド。
幸せの絶頂を切り取ったのだ。

だが、この絵は、彼らの死後、別の意味で切り取られてしまう。
破局した恋人の絵は売れないという理由で
ばっさりとトリミングされてしまったのだ。
世紀の恋人達は、キャンバスの上でも、
永遠に引き裂れた。

手軽に写真がとれるようになり、
ツーショットはこの世にあふれるほどある。
別れた二人の肖像は、
今の時代どのような運命をたどるのだろうか。

topへ

奥村広乃 16年10月23日放送

161023-03

東海道五十三次

東海道五十三次。
色鮮やかに、生き生きと
江戸時代の風景や暮らしを描いている。

作者は歌川広重。
日本人なら誰もが一度は見たことがあるこの絵には、
実は、足の指が六本ある人物が描かれている。
あなたは気づいていただろうか。
その数なんと13人。
偶然にしては、多い。

六本指の人物が、
東海道五十三次に登場する理由には諸説ある。
広重が尊敬する写楽の影響だとも、
仙人を描いているとも、
ちょっとしたユーモアだとも。
真相はいまだわかっていない。

見たことある。知っている。
そういった思い込みが人間の視野を狭くする。
東海道五十三次は、
そんなことを気づかせてくれる絵なのかもしれない。

topへ

松岡康 16年10月23日放送

161023-04

ムンクの叫び

ムンクの「叫び」。
真っ赤にうねる空に、暗い川が画の奥深くに流れていく。
真ん中にいる人物は大きく口を開け極端にデフォルメされている。

この画描かれている人物、実は叫んでいない。

「叫び」について、ムンクは日記でこう記している。

 私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。
 突然、空が血の赤色に変わった。
 私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。
 それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。
 友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。
 そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。

そう、この画に描かれた人物は、叫んでいるのではなかった。
自然の叫びに圧倒され耳をふさいでいたのだ。

topへ

澁江俊一 16年10月23日放送

161023-05

応挙の幽霊

江戸時代の最高の絵師の一人で、
徹底した写実主義で知られる円山応挙。

目に映る風景を写実しながら、
輪郭線を使わない
独自に編み出した技法や
西洋の遠近法などを駆使して
目に見えないものまで描こうとした応挙。

彼が幽霊を描いた絵がある。
みだれ髪からのぞく
切れ長の目でこちらを
力なく見つめる美しい女。

儚げな白い着物をたどると
その脚は空中に消えていく。

病弱の妻を
想って描いたとされるこの幽霊は
後の世に脚のない幽霊の姿を広めた。

写生の達人だからこそ描けた
怖ろしさと美しさ。
応挙の妻への愛を感じながら、
見直してみたい。

topへ

礒部建多 16年10月23日放送

161023-06

泣く女

「私にとって、彼女は泣く女だった。」

パブロ・ピカソの愛人、
ドラ・マールをモデルとした作品「泣く女」。

感情を露にし、
大声で泣き、怒る彼女を、
ピカソはこよなく愛した。

その姿に、ピカソはインスピレーションを受けた。
拷問のような姿のまま、彼女を描いた時もあった。

絵が完成し間もなくして、
ピカソは新しい愛人をつくる。
捨てられたドラの精神は、確実に狂っていった。

心の無い言動に向けられる数々の批判に、
ピカソはこう答えた。

「女は、苦しむ機械なのだから。」

topへ

礒部建多 16年10月23日放送

161023-07

自画像を描く女

体から蔦を伸ばす女。矢の刺さった鹿。
メキシコの女性画家、フリーダ・カーロは
作品の中の顔に、自画像を描く。

理由を聞かれた彼女は、
「ひとりぼっちだから。」と答えたと言う。

いじめに苦しんだ幼少期。
全身骨折の事故で、長く続いた病床生活。
そして、最愛の夫にも裏切られた。

誰よりも痛みと向き合い、
誰よりも人生と向き合った。

その時間の長さが、
彼女の中に芸術的な才能を育んだ。

「人生万歳」

それが彼女の47歳という短い
人生最後の作品に残した言葉だった。

topへ

澁江俊一 16年10月23日放送

161023-08

ダリのミレー愛

夕暮れに向き合う夫婦。
畑の中、足元に置かれた籠の中の
わずかなジャガイモに
妻は祈りを捧げる。

「落穂拾い」で知られるミレーの
もうひとつの傑作「晩鐘」。
貧しい農民のひたむきな姿を
美しく描いた傑作だ。

ミレーの絵をこよなく愛した
画家のサルバドール・ダリ。
彼にはこの絵が
ふつうとは違って見えていた。

妻の足元に置かれているのは
赤ん坊を入れていた籠。
実はこの夫婦、亡くなった我が子を
土に埋めたばかりなのだ。

ダリの主張を聞いてから見ると、
ミレーの「晩鐘」が
まったく別の絵に見えてくる。
ダリの歪んだ愛をも受け入れる
この絵の懐の深さを、楽しみたい。

topへ


login