細田高広 10年03月07日放送



マティス


 私が緑でえがくとき、
 それは草を意味しない。
 青く塗っても、
 空を意味するとは限らない。

色彩の魔術師と呼ばれた、
アンリ=マティス。

見える色を使わず、
見たい色を使った彼の絵画は、
まぶしいほどに鮮やかだ。

マティスの作品を見た医者は
本気で忠告したという。


 サングラスをかけた方がいい。

マティスの絵画に対する、
最高の批評だと思う。



ハンター・S・トンプソン

ジャーナリストは、客観的に語るべし。

ハンター・トンプソンは、
そんな常識をひっくり返した男。

犯罪集団への取材では、
1年にわたって共に行動。
犯罪にも加担し、
最後はボコボコに殴られて逃げ出してくる。

取材というより実体験をもとに書いた記事は、
主観と脚色だらけ。まるで小説だ。

だが、彼は言う。


 小説が、フィクションより真実を語ることがある。

当事者だけが分かる感情。
当事者だけが知る空気。

この世界には、「事実」だけ並べても伝えられない、
「真実」がある。



ミシェル・プラティニ

黒人はフランスで
サッカーをするな。

移民のサッカー選手が
活躍し始めたとき、
フランス国内で上がった声だ。

それを、ある選手の一言が黙らせる。


 サッカーに人種はない。
 下手な白人ほど黒人を差別する。

フランスのスター選手だった、
ミシェル・プラティニ。

彼が引退して、約10年後の1998年。
フランス代表はワールドカップで
初優勝を飾る。

喜び抱き合う選手たちの肌の色は、
実に多様だった。

アフリカ大陸初の
ワールドカップまで、
あと3ヶ月。

チームの絆が、
人種の壁を越える。
もうひとつの闘いに注目したい。



クインシー・ジョーンズ

スリラー。愛のコリーダ。
クインシー・ジョーンズの手がけた音楽は、
聴けばたちまち耳に残る。
だが、いつまでも飽きさせない。

曲づくりの秘訣について、彼は言う。


 女性と同じで、2、3日暮らしてみれば分かるんだ。

1日中聞いたとしても、
翌朝起きて聴きたくなれるかどうか。
もしダメなら、その曲とはきっぱり
別れるのだそうだ。

私生活では3度結婚し、
7人の子どもがいる、恋多き男。

クインシーの音楽の先生は、
恋愛だったのだ。



渋沢栄一

日本における資本主義の父、
渋沢栄一は言った。


 機械が運転しているとカスがたまるように、
 人間もよく働いていればカネがたまる。

人の役に立っていれば、お金はついてくる。
そう考えていた渋沢は、
500以上の会社を設立しながら、
多くの社会活動にも関わる。

日本赤十字社を設立し、
養育院の院長を務め、
関東大震災の際には復興の指揮をとった。

その生き方を見ると、気付かされる。
ビジネスと社会貢献はそもそも同じ意味。
人に役立つためのこと。

企業の「社会貢献活動」、
なんてわざわざ表明する風潮は、
どこかおかしいかもしれない。



ムンク

絵画「叫び」で有名な、ムンク。
彼は女性運が悪かった。

最後の彼女には
「結婚しなければ自殺してやる」
と銃を片手に脅される。
もみ合いの末、大切な指を一本失った。


 愛を炎に喩えるのは、正しい。
 炎と同じで
 山ほどの灰を残すだけだから。

恋愛に懲りたムンクは、事件以降、
女を「恐怖」や「死」のモチーフに選び
何枚もの絵画を描く。

ムンクの恋の燃えカスは、
灰なんかじゃない。
芸術だったのだ。



ジミ・ヘンドリクス

天才ギタリスト、
ジミ・ヘンドリクス。

もっと速く弾ける人も、
もっと正確に弾ける人もたくさんいる。
この場合の「天才」とは、
技術のことじゃない。


 ブルースは簡単に弾ける。だが、感じるのは難しい。

ジミヘンだけが感じていた
100%のブルース。
100%のグルーブ。

最先端の技術と機材を揃えた今でも、
未だ人類は追いつけない。

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