beaufour
ダンスのはなし フランツ中佐のタンゴ論
映画「セント・オブ・ウーマン」は
アル・パチーノ演じる気難し屋のフランツ中佐と
苦学生チャーリーの、心の交流を描いた物語だ。
劇中、フランツ中佐が
女性をダンスに誘う有名なセリフがある。
タンゴに間違いはない。
人生と違って。
足が絡まっても踊り続ければいい。
自分の間違いだらけの人生を嘲笑う気分だったのだろう。
それでも躍ればいいじゃないかと思えるこの台詞は、
物語の終盤、救いの言葉としてフランツ中佐の元に戻ってくる。
2017 年 5 月 28 日 のアーカイブ
石橋涼子 17年5月28日放送
石橋涼子 17年5月28日放送
ダンスのはなし 妖精マリ・タリオーニ
バレエの歴史は、
ダンサーでもあった太陽王ルイ14世の時代に
大いに発展したと言われる。
当時、女性ダンサーは一般的なドレスとヒールで
踊るのが一般的だった。
そこに、つま先立ちで踊る技法、ポワント・ワークで
妖精のような軽やかな表現とともに現れたのが、
マリ・タリオーニだ。
詩人ゴーチエは彼女の踊りを
いかにも詩的に賛美した。
天上の花の上を
花びらをたわめることなく
バラ色の爪先で歩く幸福な魂
痩せぎすでひょろりと手足の長い彼女は、
ひとたび踊り始めると
重力をまったく感じさせない優美な動きで
人々を魅了したと言う。
小野麻利江 17年5月28日放送
Stefan Leijon
ダンスのはなし シルヴィ・ギエムの信条
伝説のバレリーナ、シルヴィ・ギエム。
パリ・オペラ座のエトワールの座をわずか5年で返上し、
その後はどこのバレエ団とも専属契約を結ばず
50歳で引退するまで、39年間踊り続けた。
強靭で、驚くほど柔軟な身体を活かしながら
表現の枠を広げてきたギエム。
芸術監督の言ったことにも「ノン」と断ることから
つけられたあだ名は「マドモワゼル・ノン」。
そんな態度が、非難を浴びることも少なくなかった。
しかし彼女の中には、
自分の表現を高めていくために守ってきた
確固たる信条があった。
自分の心で感じていない動作をするのは、
どんな時でも正しくない。
舞台美術家のボブ・ウィルソンとの仕事を通して、
ギエムはそれを学んだという。
自分の心、そして踊りに対して、
誠実であろうとしてきたギエム。
親友にもかつて、こんなお願いをしていたという。
もしも私が、伝えることが何もない
老いぼれのダンサーになっていたら、
私を殺してね
小野麻利江 17年5月28日放送
El señor Ubé y el señor Botijo
ダンスのはなし ピナ・バウシュの源泉
ドイツの舞踊家、ピナ・バウシュ。
伝統的な型(かた)にとらわれず
身体ひとつで人間の強さや儚さ、
感情の揺らぎを表現する踊りに、
世界中が魅了されてきた。
そんな踊りの源泉について、ピナは生前こう語っている。
言葉にならない感情って、絶対にあると思う。
それを表現することが、ダンスの出発点だわ。
薄景子 17年5月28日放送
ダンスのはなし マーサ・グレアムの言葉
私はダンサーになるよう、神に召されたのだ。
そう言ったのは、アメリカモダンダンスの
創始者のひとり、マーサ・グレアム。
TIME誌では、彼女をDance of the centuryと称し、
20世紀を代表するダンサーとして人々を魅了し続けた。
モダンアートを反映した
独特の身のこなしと生命力あふれる肉体表現。
世界大恐慌など、深刻な世相をモチーフに
鬱蒼とした時代の孤独感をも表現した。
96歳で亡くなる直前まで、
生涯をダンス界に注いだマーサには
こんな名言がある。
世界にあなたは一人しかいないのだから、
自信を持って、あなた自身で踏み出して行きなさい。
それは、きっと、マーサがダンスを通じて
全身全霊で表現し続けた、魂からのメッセージ。
薄景子 17年5月28日放送
ダンスのはなし 森下洋子の言葉
プリマバレリーナ、森下洋子。
3歳でバレエと出会い、
11歳で一人で上京。
天性の才能とあふれる表現力、
人一倍の努力で、めきめきと頭角をあらわす。
150センチの小柄な体を感じさせない
圧倒的な存在感は、やがて世界中の人を魅了し、
東洋の真珠と謳われた。
バレエ歴60年を超えても活躍し続ける森下は
こんな言葉をのこしている。
一日怠ると、自分がわかります。
二日怠ると、パートナーにわかります。
そして、三日怠ると多くの人にわかります。
熊埜御堂由香 17年5月28日放送
ダンスのはなし 20歳のコンドルズ
男たちが学ランを着て、ロックを大音量で流しながら踊る
ダンス集団「コンドルズ」。
その独特のスタイルは、ニューヨークタイムズでも絶賛され、
国内外で公演を続けている。
なぜ、コンテンポラリーダンスというだけで難しいとかわからないとか
言われてしまうんだろう。
主催の近藤良平は、ずっと疑問に思い続けてきた。
そんな近藤がコンテンポラリーダンスで成し遂げたいことは?
と問われてこう答えた。
目指すは、楽しい悪ふざけ。
今年、20周年を迎えるコンドルズ。
永遠の少年たちは、すべての枠を飛び越えて踊り続ける。
茂木彩海 17年5月28日放送
ダンスのはなし 土方巽のことば
日本独自のダンスに、暗黒舞踏というジャンルがある。
確立させたのは土方巽だと言われているが、
彼はこんな言葉も残している。
自分の肉体の中の井戸の水を一度飲んでみたらどうだろうか。
ところが、みんな外側へ外側へと自分を解消してしまうのですね。
天を目指すバレエとは真逆に、
座り込み、床に転がり、身体全体で表現される土方の舞踏。
身体の奥底から絞り出されたその動きは、
土方の生き方そのものを表している。