2015 年 3 月 22 日 のアーカイブ

佐藤理人 15年3月22日放送

150322-01

創造のジンクス①「ウルフの裸」

トマス・ウルフは焦っていた。
初の長編小説「天使よ故郷を見よ」を
書いた情熱がどうしても取り戻せない。

その夜もまた彼は
インスピレーションを得られぬまま
服を脱ぎベッドへ向かった。
しかし裸で窓の前に立った瞬間、
書くことへの情熱がみるみる溢れてきた。

以来、創作で行き詰まるたび、
彼はこの方法で執筆意欲を高めた。

背が2mあり、冷蔵庫を机代わりにするほど
身体的に発達していたウルフ。
自らの肉体美を愛でることで、
内なる野生を呼び覚ましていたのだろうか。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-02

創造のジンクス②「ベートーヴェンの手洗い」

ベートーヴェンは一日に何度も手を洗った。

洗面台の前に立ち、大声で音階を唱え、
鼻歌を歌いながら水差しで手に水をかけた。

それから目をギョロギョロさせて部屋中を歩き回り、
何かメモしたかと思うと再び洗面台の前へ。

手洗いは彼に取って大切な瞑想の時間だった。
しかし大量の水漏れに怒った大家が
しょっちゅう怒鳴り込んで来た。

二人が罵り合う間に一体どれだけの名曲が
床に吸い込まれてしまったことだろう。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-03

創造のジンクス③「ハイスミスのカタツムリ」

「太陽がいっぱい」の作者
パトリシア・ハイスミスの家は、
カタツムリでいっぱいだった。

 カタツムリを見るとなぜか落ち着くの

彼女はカタツムリを300匹も飼い、
100匹を巨大なハンドバッグに入れて
パーティのお供に連れて来た。

その後フランスに引っ越したときは、
カタツムリの持ち込みが禁止されていたため、
胸の下に10匹ずつ隠して国境を何往復もしたと言う。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-04
Verónica R.
創造のジンクス④「アレンのシャワー」

 いいストーリーを作る秘訣は
 考えすぎるほど考えること

映画監督で脚本家のウディ・アレンは言う。

ヒラメキを得るため、
彼が何年もかけて編み出した方法。
それは小さな変化を起こすこと。

食事をする。外出する。そういった刺激が、
新たな精神的エネルギーを生む。
中でも効果的なのが、

 シャワーを浴びること

30分間、頭から熱いお湯を浴びながら
アイデアを考え、筋書きを組み立てる。
お風呂を出て服を着たらベッドで続きを考える。

それでも思いつかないときは、
またシャワーを浴びたくなるように
服を脱いで寒くなるのを待つそうだ。

もしもアレンが滝に打たれたら、
どんなすごいアイデアが浮かぶのだろう。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-05

創造のジンクス⑤「キルケゴールの砂糖」

哲学者キルケゴールの
コーヒーの飲み方は一風変わっていた。

まずカップに縁より高い砂糖の山を作る。
上からとびきり濃いコーヒーを注ぎ、
白いピラミッドをゆっくり溶かして一気に飲む。

大量のブドウ糖は新たなエネルギーとなり、
彼の脳みそを一日中活発に動かし続けた。

 絶望は死に至る病

と説いたキルケゴール。

心が疲れたとき甘いものが欲しくなるのは、
ちゃんと理由があるらしい。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-06
docmoreau
創造のジンクス⑥「アームストロングの民間療法」

トランペッター、ルイ・アームストロングにとって
人生は旅そのものだった。

 2万年くらい飛行機や列車に乗って来た気がする

そうボヤくほど毎晩どこかの町で演奏する日々。
健康を保つため、彼は民間療法にのめり込んだ。

喉を洗う効果があると信じて蜂蜜を飲み、
唇に手作りの怪しげな軟膏を塗り付けた。

医者たちの呆れ顔をよそに彼は常に健康で、
どんなにハードなツアーでも、
毎晩ハイレベルな演奏をこなし続けた。

 人前で披露できなきゃ
 音楽なんてなんの価値もないからね

彼にとってそれは習慣を超えた、
最高の音楽を届けるための儀式だった。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-07

創造のジンクス⑦「ベケットの暗闇」

 これからずっと
 暗くふさぎこむことになるだろう

ある晩、荒れ狂う嵐を前に、
サミュエル・ベケットは悟った。

自分の暗さこそ長所だと、
やっと認めることができたのだ。
翌日から彼は部屋に引きこもり、
自らの心の深淵を探った。

そうして生まれたのが、
傑作「ゴドーを待ちながら」。

どんな暗闇にも、光明は隠れている。

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佐藤理人 15年3月22日放送

150322-08

創造のジンクス⑧「江口寿史のスケッチ」

カワイイ女の子を描かせたら
右に出る者のない漫画家、江口寿史。

その寡作さ故に「天才」と呼ばれる彼にも、
若い頃人知れず続けた練習がある。それが、

 5分スケッチ

雑誌で気に入った写真を見つけたら、
すかさずスケッチする。条件は、

 下描きなし、5分以内、できればペンで

失敗していい。時間をかけなくていい。
練習だからこそ楽しまなくちゃいけない。

大切なのは写真をそのまま描くのではなく、
水の中に入ったらモノはこう歪むんだとか、
水にぬれた服はこう張り付くんだなどの発見を
自分なりに描くこと。

 画力とは記憶力である

彼が描く女の子は世界中のどこにもいない。
それは彼の頭の中にだけ存在する。

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