義家の勇気
今日は、納豆の日。
納豆の起源には諸説あるが、有名なものに
源義家にまつわる物語がある。
義家が奥州平定のために北上した際、
馬の食料であった、ワラの俵に詰めた煮豆が
発酵し、糸を引くようになってしまった。
兵たちが捨てていた煮豆を、
まあ待て、と義家が食したところ、
十分食べられる食料であったため、
兵糧として採用した、というのが
そのストーリー。
糸を引く煮豆を
まず食した義家の勇気もさることながら、
それを食べさせられて戦った兵たちの心情は
いかばかりだっただろう。
2016 年 7 月 10 日 のアーカイブ
田中真輝 16年7月10日放送
田中真輝 16年7月10日放送
鉢叩き
今日は、納豆の日。
古来より、人々の暮らしの中にあった納豆。
多くの歌人もその存在を歌に詠み込んでいる。
松尾芭蕉もその一人。
「納豆きる 音しばしまて 鉢叩」
鉢叩きとは師走の夜に、手に持った鉢を
叩きながら物乞いをした念仏僧のこと。
寒い夜、暖かい納豆汁を作るために
とんとんと納豆を切っていると、
チーンチーンと鉢を叩く音が聞こえて来る。
しばし手を止めて、
寒風の中、托鉢する僧の姿に想いを馳せる。
そんな芭蕉の心の温かさが
納豆汁の香りとともに、ふんわりと漂うような
一句である。
澁江俊一 16年7月10日放送
落語家と納豆
今日は、納豆の日。
その人間性を含めて
多くの落語好きから愛された
昭和の名人、古今亭志ん生
関東大震災では
酒がこぼれては困ると居酒屋に飛び込んだり、
酔っぱらったまま高座に上がり
居眠りをしたこともあるほど
酒好きだった志ん生は
納豆もまた、こよなく愛していた。
若かりし頃、
落語界から追い出されて
仕事がなかった時に
納豆売りで生計を立てようとした志ん生。
ところが「納豆ぉ~納豆ぉ~」の声が
恥ずかしくてなかなか出せずに、
人のいないところばかり
売り歩いていてまったく売れなかった。
大量に売れ残った納豆を
家族とともに朝昼晩と食べていたという。
そんな苦い思い出があってもなお
好きと言える好物に出会えるなんて、
なんと幸せな人生だろう。
澁江俊一 16年7月10日放送
文豪と納豆
今日は、納豆の日。
「走れメロス」「斜陽」「人間失格」など
人間の寄る辺なさを
ユーモアのある
美しい文章でつづった文豪、太宰治。
彼の好物は、納豆だった。
ひきわり納豆に
醤油のかわりに筋子を入れて混ぜ
熱々のご飯にのせて食べていたという。
一見、不思議な組み合わせにも思えるが
その不思議さもどこか、太宰らしく
食べてみたくさせる魅力がある。
納豆と、筋子。
子供の頃から食べていたというその味は
太宰にとって故郷津軽を感じられる
懐かしい味だったのかもしれない。
その食べ方は「太宰丼」と呼ばれ
今も青森では多くの人に愛されている。
田中真輝 16年7月10日放送
Jun Seita
いつかは蟹味噌
今日、7月10日は納豆の日。
かの食通、北大路魯山人は、
その著書の中で、
「納豆は糸の姿がなくなってどろどろになるまで
よく攪拌する」と語っている。
ある実験では、
100回の攪拌で、アミノ酸が約1.5倍、
300回で2.5倍に。
また、甘み成分は100回で2.3倍、
400回で4.2倍と、攪拌するほど、
旨みと甘みが強くなる、という結果も
示されている。
ちなみに、1万回混ぜると、その姿は
ペースト状になり、味は蟹味噌に
近くなるという実験結果も。
時間に余裕のある方は、
チャレンジしてみてはいかがだろうか。
澁江俊一 16年7月10日放送
こうへい
サッカーと納豆
今日は、納豆の日。
華麗なプレーで観客を魅了し
ピクシーの愛称で多くのファンに愛された
サッカー選手、ドラガン・ストイコビッチ。
日本食をこよなく愛していた
彼のいちばんの好物は納豆だった。
故郷のセルビアには
発酵食品がなかったにもかかわらず
その愛し方はなみなみならぬものがあった。
オーストラリアキャンプでは
朝食に頼んでいた納豆がないと知るや
怒ってスタッフに日本食材の店まで
買いに行かせたほどだったという。
糸を引くように正確な
パスやシュートのパワーの源が
納豆だったと知ると
日本人ファンとしては
また彼を愛してしまう理由が増えそうだ。
田中真輝 16年7月10日放送
hepp
くさいはうまいか
今日は、納豆の日。
納豆は臭いから苦手
という人は多いが
臭さではさらに上をいく食品がある。
発酵食品分野の権威、
小泉武夫教授らが開発した
アラバスターという機器で測定すると、
納豆の臭気数値は452。
そして、世界一臭い食べ物とされている、
スウェーデンの塩漬けニシンの缶詰、
シュールストレミングの数値はなんと8070。
小泉はその著作の中で、
その匂いを「腐敗したタマネギに、
くさやの漬け汁を加え、それにブルーチーズとフナ鮓、
古くなったダイコンの糠漬け、さらには道端に落ちて靴に
踏まれたギンナンを混ぜ合わせたような
空前絶後の凄絶なにおい」
と表現している。
そしてその味については
「やや不味い部類」とのことである。
澁江俊一 16年7月10日放送
探検家と納豆
今日は、納豆の日。
外国人は納豆を食べないとか
納豆は日本人ならではの食材とか
私たちはよく口にするが、
本当だろうか?
探検家であり作家の高野秀行は
タイやミャンマー、中国やブータンなど
アジア各地を回り、
納豆を食べる文化と次々と出会った。
そこでは
様々な調味料と合わせたり、
煮たり焼いたり炒めたりせんべいにしたり
納豆が幅広く調理されていた。
アジアでの納豆料理の
レパートリーの豊かさを見た高野は
「日本はむしろ納豆後進国なのではないか?」
と感じたという。
納豆は日本のもの
そんな常識は、
そろそろ賞味期限切れなのかもしれない。