2019 年 3 月 10 日 のアーカイブ

佐藤日登美 19年3月10日放送


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浅草、神谷バー

浅草一丁目一番地一号。
この特等席に佇むのは、明治13年に創業した日本初のバー、神谷バー。
ブランデーベースのデンキブランが売りだが、
そのレトロな建物も名物の一つだ。
アーチがあしらわれた丸い窓を持つ神谷ビルは、
東京大空襲にも耐え抜いたという。

周りが焼け野原に変わり果てたなか、奇跡的に
神谷ビルと松屋デパートだけが破壊されず残った。

酒が飲める場所は変わらずそこにある。
その姿は、戦後の人々の希望になった。

今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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佐藤日登美 19年3月10日放送



守り抜いた写真

戦時中の記録写真を撮るようにと、
警視総監に直々に命を受けた男がいた。
警視庁に勤める、石川光陽。

ある夜、なぜだか空襲の予感がした石川は警視庁に泊まりこんだ。
翌日未明、町中に警報が鳴り響く。
東京大空襲の始まりだった。

彼のライカのなかには、焼け焦げた遺体や
煙でくすぶる東京の街が収められている。
戦後、GHQから空襲の様子を撮影したネガの提出を求められたが、
石川は自宅の庭に埋めて隠し通した。
守り抜いた写真は、戦争を語る貴重な資料となっている。

今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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森由里佳 19年3月10日放送



戦争を伝える

若い世代に、戦争を伝えたい―

日本各地にある戦争資料館。
来訪数は少なく運営も立ち行かないと多くの資料館が頭を抱える中、
異例の訪問数を記録する場所がある。

茨城県、筑波海軍航空隊記念館。
かつての特攻隊訓練所に構えるその場所では、
なんと、VRで零戦による飛行体験ができるという。

もちろん「不謹慎だ」という声もありますが、
あなたはどう思いますか?

…いずれにしても、
今あなたの頭に賛否両論がよぎったならば、
この記念館は、十分に役目を果たしていると言っていいのかもしれない。

74年前の今日は、東京大空襲の日。
空を刺すような高層ビルのその先に、想いを馳せてみませんか。

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森由里佳 19年3月10日放送



戦争を感じる

菊月。
今もソロモン諸島の海岸に眠る、日本海軍の駆逐艦だ。

あるアニメ作品をきっかけに、
この船の砲身を引きあげるために政府と交渉し、
クラウドファンディングで資金を募り、
日本に持ち帰った強者がいる。

弱冠20歳の佐瀬賢太郎さんだ。

戦争があったという事実だけでなく、
どんな船に何人乗って、どういう戦いをしたのかを、
手で触れて冷たい、重いというように実際に記憶で残すこと。
それが、戦争を知らない世代に伝えていく上で大切だ、と語る。

時を超え遺る戦争の面影は、
今なお私たちに訴えかける力がある。

さあ、東の空を見上げよう。
74年前の今日、この空は東京大空襲を迎えたのだから。

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蛭田瑞穂 19年3月10日放送



吉村昭と東京大空襲

作家吉村昭は昭和2年荒川区東日暮里に生まれた。
18歳で終戦を迎えた吉村は
青春時代を東京という街で戦争とともに生きた。

太平洋戦争の末期、度重なる空襲にさらされるうちに
吉村の胸には奇妙な願いがきざした。
それは一日も早く家が空襲で焼けて欲しいというものだった。

東京から逃げ出し、他の地へ移りたい。
そのためには、家が焼ける以外方法がなかった。

青年の心に生まれた倒錯した感情が戦争の悲痛さを物語る。
今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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蛭田瑞穂 19年3月10日放送



山田風太郎と東京大空襲

小説『南総里見八犬伝』の作者として知られる山田風太郎。
医学部の学生だった山田は昭和20年1月1日から12月31日までを日記に綴り、
のちにそれを『戦中派不戦日記』として発表した。

3月10日の空襲のあと、山田は荒涼たる東京の景色を目にする。
そして、こう綴る。

 鳥も鳴かない。青い草も見えない。
 ただ、舗道のそばに掘り返された防空壕の土に、砂塵がかろく立ち迷い、
 冷たい早春の光が虚無的な白さで満ちているばかりである。

今日3月10日は、74年前に東京大空襲があった日。

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星合摩美 19年3月10日放送


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坂口安吾

今日3月10日は74年前に東京大空襲があった日。
作家・坂口安吾はエッセイ「桜の花ざかり」の中で、
3月10日から東京を焼け野原にした空襲が桜の満開の頃であったと記し、
こう続けた。

 花見の人の一人もいない満開の桜の森というものは、
 情緒などはどこにもなく、
 およそ人間の気と絶縁した冷たさがみなぎっていて、
 ふと気がつくと、にわかに逃げだしたくなるような静寂が
 はりつめているのであった。

今年も東京に桜前線がやってくる。
人で賑わう花見のなんと幸せなことか。

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星合摩美 19年3月10日放送


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イチョウの木

墨田区の稲荷神社の一角に、
樹齢600年とも言われるイチョウのご神木がある。
悠々と葉を茂らせている大木だが、
よく見るとその幹は真っ黒に焼け焦げている。
幹を焼いたのは、東京大空襲の焼夷弾だった。

一夜にして10万人を超える市民が炎に包まれ命を落とした。
中でも被害が大きかった墨田区は総面積の9割以上を消失したが、
このイチョウは炎に焼かれながらも、
逃げ集まってきた人々に降りかかる火の粉を払い、
盾となり、町の延焼をも食い止めた。

人々は命を救ってくれたその木を「身代わり焼けイチョウ」と呼んだ。
今日3月10日は74年前に東京大空襲があった日。

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