数学者のスイッチ①「ニュートンとハレー」
万有引力を発見したニュートンの元を、
ハレー彗星の発見者ハレーが訪れた。
彗星が引力で地球の周りを
回っていることは知っていたが、
その軌道がわからなかったのだ。
ニュートンに尋ねると即座に
「楕円だ」と答えた。
計算式を見せて欲しいと頼むと
「後で送る」と言われた。
返事が来たのはそれから約2年も後のこと。
届いたのは分厚い論文だった。これが、
「自然哲学の数学的論理」
通称「プリンキピア」と呼ばれるもの。
ガリレオやコペルニクスたち先人が成し遂げてきた
数学、天文学、物理学の発見の数々。
それらをひとつに体系づけたこの論文は、
自然の仕組みを数学的に解明した初めての書であり、
近代科学の夜明けであった。
熱心なキリスト教徒だった
ニュートンにとってこの宇宙は、
数字で記された聖書
だった。
彼は誰にも真似できない方法で、
神への愛を示してみせた。
2013 年 5 月 11 日 のアーカイブ
佐藤理人 13年5月11日放送
佐藤理人 13年5月11日放送
数学者のスイッチ②「ハミルトンと橋」
1843年のある日。
数学者ウィリアム・ハミルトンが
近所の橋を渡っていると突如天啓が訪れた。
四元数
という新しい代数の概念を思いついたのだ。
感動のあまり彼は、
数式をナイフで欄干に刻みつけた。
しかしこの理論は難解すぎて、
理解できる人は誰もいなかった。
10歳で10ヶ国語を話し、
ニュートンの再来
と呼ばれた彼は
残りの人生をその研究に費やしたが、
ついに理解されることなくこの世を去った。
彼の理論が役立ったのは、
それから150年も後のこと。
ロボットや宇宙船を制御する
コンピュータグラフィックスに欠かせない、
遥か未来のアイデアだったのである。
佐藤理人 13年5月11日放送
数学者のスイッチ③「コワレフスカヤと文学」
ロシアが生んだ世界初の女性教授、
ソフィア・コワレフスカヤ。
彼女は、フランス最大の科学賞に輝く
優れた数学者である一方、
ヨーロッパ中で翻訳が出版されるほどの
ベストセラー作家でもあった。
数字に飽きると文字へ。
そしてまたその逆へ。
数学者は詩人でなければなりません
そう言ってコワレフスカヤは、
解釈がただ一つしか許されない世界と
無数に存在する世界を自由に行き来した。
彼女が得意としたもの。それは、
楕円関数
通常の円とは異なり、
楕円には焦点が2つある。
数学と文学。
両方に軸足をおいて活躍した、
実に彼女らしい選択だった。
佐藤理人 13年5月11日放送
V. Ganesan
数学者のスイッチ④「ラマヌジャンと神様」
インドのマドラス大学には、
数学の公式で埋め尽くされた3冊のノートが
大切に保管されている。
今もなお世界に衝撃を与え続ける、
シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの
「ノートブック」だ。
15歳で数学を学び始めた彼は、
6000個の公式を独学で理解しただけでなく、
新しい公式を見つけると、
次々とノートに書いていった。
しかし26歳でケンブリッジ大学に招かれると、
ある問題が起きた。
それらの公式を証明できなかったのだ。
人間離れした直観力と計算力を持ち、
南インドの魔術師
と呼ばれた彼の頭脳には、
初めから「証明」という概念が欠けていた。
どうして思いついたのか聞かれると彼は、
神様が夢の中で教えてくれた
と答えた。
過度の菜食主義による栄養失調と
研究の無茶がたたり、
ラマヌジャンは32歳の若さでこの世を去る。
それから100年近くたった今もなお、
彼が遺した3254個の公式は
解き尽くされていない。
佐藤理人 13年5月11日放送
Bob Lord
数学者のスイッチ⑤「チューリングとエニグマ 1」
かつてチャーチルは言った。
私が本当に恐れたのはUボートだけだ
第二次大戦でイギリスは、
ドイツが誇るこの世界最強の潜水艦に
何十万トンもの輸送船を沈められた。
島国のイギリスにとって、
食糧や燃料を絶たれることは死を意味する。
しかしどれだけ通信を傍受しても、
Uボートの位置がつかめなかった。
ドイツの通信はすべて
エニグマ
という機械で暗号化されていたからだ。
一兆の一万倍もの暗号を作成できる
この機械を破るため、
国中から数学者が集められた。
リーダーはケンブリッジ大学のエース、
アラン・チューリング。
計算の天才 対 解読不可能な暗号機
世界を賭けた対決の火蓋が切って落とされた。
佐藤理人 13年5月11日放送
On Being
数学者のスイッチ⑥「チューリングとエニグマ 2」
かつて「コンピュータ」は
「計算を仕事にする人」を意味した。
第二次大戦中、
イギリスを苦しめたドイツの暗号機「エニグマ」。
その解読にあたった数学者
アラン・チューリング自身が、
正に人間コンピュータだった。
問題解決の手順を形式化する
という彼の研究は、
暗号解読にピッタリだっただけでなく、
現代のコンピュータプログラムの原型を作った。
彼は見事、暗号を解読。
ドイツのUボート作戦を中止に追いやる。
科学と違い、
数学なんて役に立たないと言われた時代。
チューリングは計算で祖国を救い、
世界とコンピュータの歴史を書き換えた。
今日(こんにち)彼は、
人工知能の父
と呼ばれ、世界中で愛されている。
佐藤理人 13年5月11日放送
数学者のスイッチ⑦「チューリングとエニグマ 3」
ドイツの暗号機「エニグマ」を解読し、
イギリスを救った数学者、
アラン・チューリング。
しかし暗号解読は国の最高機密なため、
彼の功績はひた隠しにされた。
同性愛者であることを理由に、
逮捕され職もうばわれた。
絶望したチューリングは
41歳のとき自ら命を絶つ。
政府がその不当な扱いを謝罪したのは、
55年も後のこと。
人類の進歩を妨げるものは、
いつだってくだらない無知と偏見だ。