2013 年 6 月 29 日 のアーカイブ

小山佳奈 13年6月29日放送


pcurtner
雨が降る季節には タクシードライバー

映画「タクシードライバー」冒頭のシーン。

ロバートデニーロ演じるタクシー運転手が
夜のニューヨークを流すシーン。

雨上がりの濡れたアスファルトに光る
ネオンサインが、彼の孤独を映し出す。

雨が降ればそれだけで
街は一つの映画になる。

彼の台詞がまた、素晴らしい。

「人間は醜悪だ。
 奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ」

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小山佳奈 13年6月29日放送


AlexRK
雨が降る季節には アリストテレスとベアとトーマス

雨の匂いをかぐと
なぜか懐かしい気分になるのは
なぜかでもなんでもなく
科学的に証明されている。

1964年。
オーストラリアの科学者、ベアとトーマスが
ペトリコールとゲオスミンの2つの物質が
雨の匂いの正体であることを発見した。
それは濡れた地面からたちのぼる匂いだった。

その昔、哲学者アリストテレスは
雨の匂いは虹の匂いだといったらしい。

人間の想像力と科学の発達を横目でみながら
1000年前と変わらず雨は降り続ける。

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小山佳奈 13年6月29日放送


kansaikate
雨が降る季節には 金原亭馬生

上方落語に「茗荷宿」という話がある。

大金を持って宿にやってきた客に茗荷を大量に食べさせて
お金を置き忘れさせようと企む宿屋の妻。
しかし自分自身も茗荷を食べ過ぎて、結局、
宿賃をもらい忘れる、という話。

この話をときどき高座にかけていた
10代目金原亭馬生も
よく登場人物の名前を忘れていたらしい。

もっとも彼の場合は茗荷ではなく
お酒のせいだったらしいですが。

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小山佳奈 13年6月29日放送


dtpancio
雨が降る季節には 川上弘美

「うまい蝦蛄食いにいきましょうと
 メザキさんに言われて、ついていった」

そんな一文から始まる、
川上弘美の「さやさや」というお話。

よっぱらって電車がなくなって
暗い夜道をふらふらと二人で歩き続ける。

ただそれだけの話なのに
その暗闇に飲み込まれて戻れなくなる気がするのは、
川上さんの筆力であることは言うまでもないが、
半分は食べていたのがあのグロテスクな蝦蛄(シャコ)だからじゃないかと思う。

川上さんの書く話はとにかくお腹が空く。
「センセイの鞄」で、センセイとわたしが居酒屋で頼む、
まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、塩らっきょう。

「蛇を踏む」で、蛇が晩ごはんに並べるのが
つくね団子に、いんげんを煮たもの、おからに刺身。

雨ばかりのこの季節、食欲がないあなたには、
川上弘美の小説を、ぜひ。

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小山佳奈 13年6月29日放送



雨が降る季節には アントン・チェーホフ

アントン・チェーホフ。

言わずとしれた歴史上もっとも
すぐれた短編作家の一人。

よい文章を書く秘訣を問われた彼が
いった言葉がこちら。

「雨が降ったら、雨が降ったと書け」

なるほど。
簡潔でわかりやすい。
さすが、世界一の短編作家。

ちなみに彼の最後の言葉も
「私は死ぬ」
だったとか。

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小山佳奈 13年6月29日放送


むさし野
雨が降る季節には 高野文子

25年前の1968年6月6日木曜日に
奥村さんが茄子を食べたかどうか。

そんな荒唐無稽なやりとりから始まる
漫画「奥村さんのお茄子」。

作者である高野文子はとても寡作な人で
30年以上活動しているのに
出した本はたったの6冊。

時間をかけて磨かれたものにしかない
宝物のようなきらめきがそこにはある。

たまには、ゆっくりいきてみよう。
茄子でも食べながら。

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小山佳奈 13年6月29日放送


Guillaume Brialon
雨が降る季節には 向田邦子

雨が降るこの季節になると、
甘くみずみずしく実るのがメロンだが。

向田邦子の短編「かわうそ」の中に登場する
メロンは不気味な存在感を持っている。

日常の不幸をどこか楽しんでしまう妻と
そんな妻を持った夫の寂寥を描いたこの小説。

そのクライマックスで、いただきもののメロンを
妻が夫にすすめるシーンがある。

「メロンねぇ、銀行からのと、マキノからのと、
 どっちにします」

1つではなくて、2つのメロンのいただきもの。
そこに八方美人な妻の酷薄さが見える。

それにしても向田邦子は、
食べ物に名脇役を演じさせる天才だ。

彼女には台詞すら唱える食べ物の姿が
見えていたのかもしれない。

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