2013 年 6 月 のアーカイブ

小山佳奈 13年6月29日放送

dtpancio
雨が降る季節には 川上弘美

「うまい蝦蛄食いにいきましょうと
 メザキさんに言われて、ついていった」

そんな一文から始まる、
川上弘美の「さやさや」というお話。

よっぱらって電車がなくなって
暗い夜道をふらふらと二人で歩き続ける。

ただそれだけの話なのに
その暗闇に飲み込まれて戻れなくなる気がするのは、
川上さんの筆力であることは言うまでもないが、
半分は食べていたのがあのグロテスクな蝦蛄(シャコ)だからじゃないかと思う。

川上さんの書く話はとにかくお腹が空く。
「センセイの鞄」で、センセイとわたしが居酒屋で頼む、
まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、塩らっきょう。

「蛇を踏む」で、蛇が晩ごはんに並べるのが
つくね団子に、いんげんを煮たもの、おからに刺身。

雨ばかりのこの季節、食欲がないあなたには、
川上弘美の小説を、ぜひ。


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小山佳奈 13年6月29日放送


雨が降る季節には アントン・チェーホフ

アントン・チェーホフ。

言わずとしれた歴史上もっとも
すぐれた短編作家の一人。

よい文章を書く秘訣を問われた彼が
いった言葉がこちら。

「雨が降ったら、雨が降ったと書け」

なるほど。
簡潔でわかりやすい。
さすが、世界一の短編作家。

ちなみに彼の最後の言葉も
「私は死ぬ」
だったとか。


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小山佳奈 13年6月29日放送

むさし野
雨が降る季節には 高野文子

25年前の1968年6月6日木曜日に
奥村さんが茄子を食べたかどうか。

そんな荒唐無稽なやりとりから始まる
漫画「奥村さんのお茄子」。

作者である高野文子はとても寡作な人で
30年以上活動しているのに
出した本はたったの6冊。

時間をかけて磨かれたものにしかない
宝物のようなきらめきがそこにはある。

たまには、ゆっくりいきてみよう。
茄子でも食べながら。


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小山佳奈 13年6月29日放送

Guillaume Brialon
雨が降る季節には 向田邦子

雨が降るこの季節になると、
甘くみずみずしく実るのがメロンだが。

向田邦子の短編「かわうそ」の中に登場する
メロンは不気味な存在感を持っている。

日常の不幸をどこか楽しんでしまう妻と
そんな妻を持った夫の寂寥を描いたこの小説。

そのクライマックスで、いただきもののメロンを
妻が夫にすすめるシーンがある。

「メロンねぇ、銀行からのと、マキノからのと、
 どっちにします」

1つではなくて、2つのメロンのいただきもの。
そこに八方美人な妻の酷薄さが見える。

それにしても向田邦子は、
食べ物に名脇役を演じさせる天才だ。

彼女には台詞すら唱える食べ物の姿が
見えていたのかもしれない。


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古居利康 13年6月23日放送

wolfnowl
雨の詩集 ①草野心平

雨の詩集。
草野心平の「石」。

 雨に濡れて。
 独り。
 石がゐる。
 億年を蔵して。
 にぶいひかりの。
 もやのなかに。


詩人は、
ただの石ころに、
気の遠くなる時間を感じ取る。

その石を濡らす雨もまた、
何億年も前から降っていた雨。

草野心平は、
人間でないものの眼で
この世界を愛した。


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古居利康 13年6月23日放送

kakade
雨の詩集 ②まどみちお

雨の詩集。
まどみちおの『あめ』。

 あめがふる
 あめがふる
 あめがふる
 そらが おおきな
 かお あらう

 あめがやんだ
 あめがやんだ
 あめがやんだ
 そらが きれいな
 かお だした


詩人まどみちおのことは、
「まどさん」と呼びたくなる。

雨も、空も、雲も、太陽も、
まどさんから見れば、
いつも新しく生まれ変わる、
大きな生きものの一部だ。


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古居利康 13年6月23日放送


雨の詩集 ③寺山修司

雨の詩集。
寺山修司の俳句。

 梅雨のバス少女の髪は避くべしや

「15歳から19歳までのあいだに、
ノートにしてほぼ10冊、
各行にびっしりと
書きつらねていった俳句は、
日記に代わる自己形成の記録
なのであった。」

寺山修司は、そう書いている。
歌人、劇作家、劇団主宰、映画監督。
彼の多彩な才能の原点に、
俳句があった。

 梅雨のバス少女の髪は避くべしや

通学のバス。
乗り合わせた同級生の少女の髪。
雨に湿って匂い立つ。
少年の陶酔、そして逡巡。

五七五に濃縮された言葉は、
短編映画のように映像的だ。


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古居利康 13年6月23日放送


雨の詩集 ④八木重吉

雨の詩集。
八木重吉の『雨』。

 雨のおとがきこえる
 雨がふってゐたのだ

 あのおとのように
 そっと世のためにはたらいてゐよう

 雨があがるように
 しづかに死んでゆこう


そして、若い詩人は、
詩集を一冊だけ出して、
ほんとうに静かに死んでいった。


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古居利康 13年6月23日放送


雨の詩集 ⑤リチャード・ブローティガン

雨の詩集。
リチャード・ブローティガンの、
『カフカの帽子』。

 雨が降っている
 屋根の上に
 外科手術的に降っている
 ぼくは
 カフカの帽子のような
 アイスクリームを食べた

 横たわって
 じっと天井を見ている
 患者をのせた手術台のような
 味のアイスクリームだった


ブローティガンは、
テンガロンハットをかぶって
写真に写っていることが多い。
帽子が好きなひとは、
他人の帽子も気になるのだろうか。

20世紀初頭のプラハの街角を
歩くとき、カフカはどんな帽子を
かぶっていたのだろう。
ブローティガンの言葉を通して、
見たことのないカフカの帽子を
わたしたちは想像する。


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古居利康 13年6月23日放送

groovysisters
雨の詩集 ⑥種田山頭火

雨の詩集。
種田山頭火の俳句。

 夕立が洗つていつた茄子をもぐ

40歳を過ぎて山頭火は旅に出る。
ほぼ無一文。托鉢僧の姿で物乞いし、
見ず知らずの家で、ひとつまみの米を
わけてもらったりした。

 こんやの寝床はある若葉あかるい雨

五七五の形式からも、
この社会の決まり事からも、
はみ出していった、山頭火の句。
何も持たないひとの、
一種ふしぎな明るさに、
わたしたちは救われる。

 雨だれの音も年とつた


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