2016 年 5 月 21 日 のアーカイブ

渋谷三紀 16年5月21日放送

160521-01

あのひとの好物 東郷平八郎

小説「坂の上の雲」にも登場する、
日露戦争の名指揮官、東郷平八郎。
イギリス留学時代に食べたその味が忘れられず、
ビーフシチューをつくるよう部下に命じた。

しかしながら、料理長は、
ビーフシチューがどんなものかを
知らなかった。
デミグラスソースの代わりに、
しょうゆと砂糖を使って、
なんとかつくりあげたのが、なんと、肉じゃが。

100年後、
おふくろの味と呼ばれるようになるなんて、
そのとき誰が想像しただろう。

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渋谷三紀 16年5月21日放送

160521-02

あのひとの好物 田山花袋

小説家、田山花袋。
食に対しては、
味より匂いにこだわる性分。
熟しすぎて崩れそうな庭の柿を、
口髭をぬらしながら、
啜るようにして食べていたらしい。

匂いへの執着が、
花袋の代表作「蒲団」をうんだ。
主人公は小説家。
想いをよせる弟子の蒲団の匂いを嗅ぐという
フェティシズムを描いた小説だ。

自らの欲求を赤裸々に書いたことが評価され、
花袋は明治文学史に、その名を残した。

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渋谷三紀 16年5月21日放送

160521-03

あのひとの好物 林芙美子

作家、林芙美子。
貧しい暮らしの中で書いた「放浪記」が、
ベストセラーになった。
印税を手に、芙美子は憧れのパリ留学を果たす。

パリでの芙美子は、
文化、酒、美食、そして恋にどっぷりとひたる。
髪を短くカットし、
アール・ヌーボーの椅子に腰かける姿は、
日本にいたときとは別人のようだ。
その芙美子が、帰国後すぐに向かった場所がある。

 波止場のそばの小さいうどん屋で、
 葱をふりかけた熱いうどんを食べた。
 天にものぼるやうにおいしい。
 たつた六銭だつたのに吃驚してしまつた。

クロワッサンもカフェオレも知った。
けれど、父母との放浪暮らしの記憶は、
深く濃く、芙美子のからだに刻まれていた。

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渋谷三紀 16年5月21日放送

160521-04

あのひとの好物 清少納言

ちかごろブームのかき氷。
実は千年以上も前から、
日本女性を夢中にさせていた。

 あてなるもの
 削り氷にあまづら入れて
 新しき金鋺に入れたる

清少納言は枕草子に、
あてなるもの、つまり、雅なものとして、
水晶や藤の花とともに、
シロップがけのかき氷を挙げている。

氷など、たやすく手にできなかった時代。
キラキラまばゆい輝きも、
ひんやりと口に広がる甘みも、
一瞬でとけゆく儚さも。
いまとは比べ物にならないほど、
美しく映っていたにちがいない。

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渋谷三紀 16年5月21日放送

160521-05

あのひとの好物 カント

ドイツの哲学者、カント。
カントの行動を見れば
時刻がわかるといわれたほど、
規則正しい生活を送っていた。
そんなカントにも、弱みがあった。

大好物のチーズだ。

食べすぎておなかを壊し、死にかけた。
医者に止められても、
世話係にチーズをねだり、だだをこねた。

チーズをくれたら、金を払おう。
私には確かにその金がある。

そういって、
自説の論理的証明をはじめたというのだから、
哲学者の執念は、おそろしい。

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