あの人のラブレター/ヘミングウェイ
アメリカの小説家、アーネスト・ヘミングウェイ。
「老人と海」、「武器よさらば」など代表作は多いが、
愛した女の数も多かった。
1945年。第二次大戦で、ヨーロッパ戦線から
キューバに戻ったヘミングウェイは、
恋人に、こんなラブレターを書いている。
きみに会えないのは実にこたえるんだ。
いまはなんとかやっているが、本当はきみが恋しくて死にたいくらいさ。
もしきみに万一のことがあったら、
つがいの相手に死なれた動物園の動物のように、おれも死ぬだろうな。
その後、恋人のメアリー・ウォルシュを新妻に迎えたヘミングウェイ。
実に、4度目の結婚だった。
恋多きノーベル文学賞作家は、ラブレターの書き方も巧い。
2012 年 12 月 1 日 のアーカイブ
佐藤延夫 12年12月1日放送
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/バルザック
フランスの作家、オノレ・ド・バルザック。
彼の恋愛模様は、ほかの人とは少々違っていた。
恋する相手は年上ばかり。
23歳のときは、倍以上年上の相手を好きになった。
34歳のときには、エヴァリーナという伯爵夫人と恋に落ちる。
ラブレターも情熱的だった。
あなたのことを思うと、気が狂いそうだ。
胸が張り裂けんばかりで。
何か二つのことを考えていても、きまってあなたがその隙間に入りこんでしまう。
エヴァリーナの夫、ハンスカ伯爵が亡くなったあと、ふたりは結婚する。
しかし、それから5ヶ月後、バルザックはこの世を去ってしまう。
いつの時代も、思い通りにいかないのが、恋というもの。
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/フリーダ・カーロ
メキシコの女流画家、フリーダ・カーロ。
彼女が恋した相手は、
自分に絵を教えてくれたメキシコ絵画の巨匠、ディエゴ・リベラ。
愛する彼のために、こんなラブレターを書いている。
あなたの両手に匹敵できるものは、何もない。
あなたは夜の鏡。鮮烈な稲光り。しめった大地。
わたしの神経のすべての通り道は、あなたのもの。
これほど情熱的に愛し合ったふたりだが、
リベラの浮気が原因で離婚。
そうかと思えば、次の年に復縁している。
波瀾に満ちた恋愛が、芸術を生み出すのかもしれない。
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/カスター将軍
アメリカの軍人、ジョージ・アームストロング・カスターは、
陸軍第七騎兵隊を率いて、南北戦争の英雄になった男だ。
自分が乗った11頭の馬すべてが銃弾を受けたのに、
カスター本人は、たった一度しか負傷しなかったという逸話を持っている。
彼の立身出世に大きく貢献したのは、
南北戦争のほかに、愛する妻、エリザベスの存在だった。
エリザベスは、カスターから求婚されたときに、
こんな宣言をしたという。
あなたが酒とギャンブルと、悪態をつく癖をやめないと結婚しない
カスターはこの約束を守り抜き、
戦地に赴くと、こんなラブレターを書いた。
生あるあいだ、お前は俺のすべてだし、
仮に祖国が俺の死を必要とし、運命が俺の死を望んだから、
俺は最後の祈りをお前に捧げ、
最後の息でお前の名前を囁く・・・。
戦争というものは、恋愛をより深い場所に連れていくのだろうか。
もっと赤裸裸で、命の形がくっきり見える場所に。
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/マージョリー・フォッサ
マージョリー・フォッサという女性は、いわゆる有名人ではない。
だが、エルヴィス・プレスリーの熱狂的なファンとして、その名が知れていた。
これは、彼女がプレスリーに出した、長いラブレターの、ほんの一節。
絶対に、歌うことをやめないでください。
あなたのおかげで、この世界は素晴らしい場所になっているんだもの。
そういう力を持った歌手がもっとたくさんいればいいと思うけど、
あなたに代わる人は絶対にいません。
これからも死ぬまで、あなたを愛し続けます。
のちにマージョリーのもとに、
プレスリー本人からお礼の手紙とサイン色紙が送られてきた。
もちろん彼女は、銀行の貸金庫で厳重に保管したそうだ。
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/ロナルド・レーガン
アメリカ合衆国第40代大統領、ロナルド・レーガン。
彼は1981年、大統領に就任したのち、
妻のナンシーに手紙を送った。
親愛なる大統領夫人へ
きみが本来の職務を遥かに超えてなしたこと、すなわち、
ある一人の男性(私)を二十九年間にわたって
世界一幸せな人間にしてきた事実を合衆国大統領として顕彰できるのは、
この上なく名誉ある特権である。
こんなラブレターが書けるのは、大統領ただ一人。
史上最強の役得だ。
佐藤延夫 12年12月1日放送
あの人のラブレター/ベートーヴェン
ドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
生涯独身を貫いた彼だが、
多くの女性との淡いロマンスを経験している。
その相手は、既婚者だったり、婚約者がいたり、
あるいは、自分とは不釣り合いなほどの身分の人だったり・・・。
42歳のとき、ベートーヴェンは、衝撃的な恋をする。
相手の名前は、未だに明らかになっていない。
ちょうど交響曲第七番が完成した年に、こんなラブレターを書いていた。
貴方がどんなに私を愛していようと・・・
私の貴方へ愛のほうが勝っているはずだ・・・
でも、私の前から決して姿を消したりなさらないように・・・
おやすみなさい・・・ああ、神様・・・
これほど近くにいるのに!これほど遠いとは!
残念ながら、このラブレターが読まれることはなかった。
彼の死後、遺品の中から発見されたからだ。
この切ない真実を聞いて、少しほっとする。
青春時代、真夜中に書いたラブレター。
次の日になると考え直して、そっと机の中にしまいこむ。
おそらく同じ体験を、ベートーヴェンもしていたのだから。