2015 年 2 月 のアーカイブ

伊藤健一郎 15年2月15日放送

150215-04

月に立った男たち ユージン・サーナン

“月面に降り立った最後の人間”。
アポロ17号船長、ユージン・サーナン。

カソリック教徒であった彼は、宇宙での体験をこう口にした。

 地球はいきいきとして雄大で、
 その存在は、偶然の産物にしては
 あまりに美しすぎる。
 われわれより大きな何かが存在するはずだ。
 宗教的なものでなく霊的なもの。
 人間の作った宗教を超越する
 万物の創造主が、存在するに違いない。

もしも、サーナン船長のように、誰もが地球を俯瞰できたなら。
われわれ人類は、様々な隔たりなく、深く理解し合えるのだろうか。

アポロ計画が終了して40年余り。
サーナン船長を最後に、人は月を歩いていない。

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伊藤健一郎 15年2月15日放送

150215-05

月に立った男たち デイヴィッド・スコット

イタリアの物理学者、ガリレオ・ガリレイ。
1960年代初頭、彼の学説は宗教裁判にかけられ、終身刑を言い渡される。

それから月日が流れ、1971年。
アポロ15号船長デイヴィッド・スコットは、月面で、ある実験を試みた。

内容は、実にシンプル。
「ハヤブサの羽と、地質探査用ハンマーを、同時に月面に落とす」
というものだった。

そこには、宙をひらひら舞う羽も、
地表にどすんと落下するハンマーもなかった。
ただ、静かに、同じ速度で落ちていく。異なる質量を持つ2つの物体があった。

ガリレオの学説が認められて久しい今なお、その光景は目新しい。
偉大な物理学者の学説は、ひとりの宇宙飛行士によって実証された。

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伊藤健一郎 15年2月15日放送

150215-06

月に立った男たち ハリソン・シュミット

月に降り立った、唯一の科学者。ハリソン・シュミット。
アポロ17号の乗組員だった彼は、地質学の権威だった。

シュミットは語る。

 月は、天然資源の宝庫だ。
 土壌には、ヘリウム3が豊富に蓄積されているんだ。

ヘリウム3とは、核融合発電の燃料となる気体。
月に100万トンが眠るとされるその気体は、
わずか25トンで、欧州と米国の1年分の電力を賄うという。

かつてNASAは「2018年に、人を月に送り込む」と宣言した。
近い将来、人類が抱えるエネルギー問題の答えが、月で見つかるかもしれない。

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伊藤健一郎 15年2月15日放送

150215-07

月に立った男たち ジョン・ヤング

宇宙飛行士、ジョン・ヤング。
アポロ16号の船長として
月でのミッションを成功させた彼にも、
初々しい新人時代がある。

それは、アポロ計画よりも前、ジェミニ3号の乗組員だった頃。
当時、味気ない宇宙食に不満を抱いていたヤングは、
サンドウィッチを、内緒で機内に持ち込んだ。

任務は無事成功したものの、非難轟々。
安全面への配慮が欠けているとして、大ブーイングをくらう。

ヤングは言う。

 変えるには、リスクが伴う。
 変えなければ、より大きなリスクが伴う。

いまや、多種多様の味が楽しめる宇宙食。
若き日のヤングの行動が、食味向上のきっかけとなったのは言うまでもない。

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奥村広乃 15年2月14日放送

150214-01
Mullenkedheim
凍る涙

禁断の恋。
許されぬ逢引。
そして、駆け落ち。

伊勢物語に書かれた、
男が二条の后を盗み出すエピソード。
モデルは、平安時代を代表する歌人、在原業平。
そして、藤原高子(ふじわらのたかいこ)といわれている。
高子は才色兼備な女性で、
彼女の舞をみた男性は、
あまりの美しさに熱を出したという。

しかし、藤原一族の政略結婚に巻きこまれ
愛する人と結ばれることはなかった。

高子は、こんな歌をのこしている。

 雪のうちに春はきにけり 鶯のこほれる涙いまやとくらむ

雪がすべてを閉じ込めているうちに春が来た。
鶯の涙は、かなしみで凍っているけれど、
あたたかい春が来たのだから、
これから溶けてゆくのでしょうか。

辛い冬を越えて、春が来るように。
恋のかなしみも、いつか終わる。
平安の悲恋の姫君も、そう願ったのであろうか。

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礒部建多 15年2月14日放送

150214-02

王冠を賭けた恋

イギリス国王を
325日という最短の在任期間で退位した、エドワード8世。
彼は王位と引き換えに、ある女性との結婚を選んだ。

その名は、ウォリス・シンプソン。
王室には許されざる離婚歴を持っており、
また交際当時には人妻でもあったため
教会と国民から猛反発を受けた。

独身のまま国王になったエドワードは
愛する女性と結婚したいという想いを国民に説明しようと試みるが、
理解を得られず
ついに追いつめられて退位を決意。
王としての最後のスピーチを、こう締めくくった。

 愛する女性の助けと支え無しには、
 自分が望むように重責を担い、
 国王としての義務を果たすことが出来ない。

恋は人一人の人生はおろか、
一国の運命さえも左右する。

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松岡康 15年2月14日放送

150214-03
Fey Ilyas
恋する人工知能

人工知能が人間に
恋をするような未来は来るのだろうか?

「her/世界でひとつの彼女」は、
姿のない人工知能型OSのサマンサと、
中年男性セオドアの恋愛を描いた映画だ。

監督と脚本を手がけたのは、
奇才スパイク・ジョーンズ。

自分のことを何でも理解してくれる
サマンサに惹かれていくセオドア。
サマンサもまた、自分には無い複雑さを持つ
セオドアに惹かれていく。

セオドアはイヤホンをつけ、
外出中や旅行中でも声だけのサマンサと行動を共にする。
互いへの理解を深め、自分を省みる。
時にはケンカをし、いったん距離をおいてみる。

現実のカップルよりも
リアルな恋愛を、映画は描き抜いた。

そう遠くない未来、人工知能が私たちに
恋をする日がやってくるなら

その禁断の恋に、
人間はどう答えるのだろう?

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澁江俊一 15年2月14日放送

150214-04
Hil
あまりにも理不尽な

江戸時代きってのストーリーテラー、
近松門左衛門の最大の問題作、
女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)。

1721年に人形浄瑠璃で初演されたが
まったく評価されぬまま時は過ぎ、
約200年後の明治42年に歌舞伎で再演され
大ヒットとなった。

観客の感情移入をまったく許さない
悪人中の悪人が、主人公の与兵衛だ。
放蕩の限りを尽くし、義理の両親に暴力をふるい
油屋を営む家から勘当された与兵衛は、
さらに借金を重ね、同じ油屋の人妻お吉(おきち)を頼る。
ただ一人、与兵衛を理解しようとする美しいお吉に
何度も金を借りようとしたあげく断られ、
与兵衛はついに、彼女を殺してしまう。

クライマックス。
油と血にまみれ、滑りながらお吉を追い回す
殺害シーンは、まさに油の地獄。

殺しの動機は、金か、恋か、それとも?
それすらも、見る者にゆだねるこの物語に
近松は、どんなメッセージを隠したのだろうか。

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薄景子 15年2月7日放送

150208-001

名前のはなし ジョン・デュワー

世界屈指の人気を誇る
スコッチウィスキー、「Dewar’s」。

その創業者、ジョン・デュワーは、
手間と暇と丹精をこめれば
最高のブレンデッドウィスキーがつくれるという
信念を貫き、「Dewar’s」を生み出した。

彼は、このウィスキーになぜ「Dewar’s」と名付けたかを
きかれたとき、こう即答したという。

「もし、あなたがこの酒をつくったら、
 自分の名をつけずにはいられないだろう」

名を遺す。
それは、誇りを遺すということ。

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薄景子 15年2月7日放送

150208-02

名前のはなし デール・カーネギー

たとえば、一度しか会ったことがないのに
自分の名前をしっかりおぼえてくれていた人。

たとえば、毎日交わす挨拶のまえに、
いつも自分の名前を呼んでくれる人。

そんな人に出逢うたび、
胸のあたりが、ぽっとあたたかくなるのはなぜだろう。

アメリカの作家、デール・カーネギーは言う。

 名前は、当人にとって、
 最も大切なひびきをもつ言葉である。

自分の名前はこの世で一番最初のプレゼント。
そのひびきは、人生とともに
世界でいちばん愛しい音になっていく。

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