2020 年 5 月 24 日 のアーカイブ

野村隆文 20年5月24日放送


窓を開けよう 大きな窓

「窓が大きさを増すのは、文明の拡大を暗示する」。
チェコ出身で、日本にも多くの建築を残した
建築家アントニン・レーモンドはそう言った。

異なる民族が陸続きで存在したヨーロッパでは、
外敵から身を守るために、強固な壁をつくる必要があった。
時代が下り、恐るべき敵が少なくなるにつれ、
少しずつ窓は大きくなってきたという。

一方で、モダニズム建築の礎を築いたル・コルビュジエは
「ヨーロッパの建築の歴史は、窓との格闘の歴史である」
という言葉を残している。

ヨーロッパの住まいを象徴する、石造りや煉瓦造り。
丈夫で頼りがいのある印象を受けるが、
石や煉瓦を積上げて作った壁に大きな窓を開けるのは、
建築家にとって長い間、悩みの種だった。

風が暖かくなってきた、今日このごろ。
大きな窓が開けられるのは、
平和の象徴であり、
建築家たちの積年の夢でもあるのかもしれない。

さあ、窓を開けよう。


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野村隆文 20年5月24日放送

Raymond.Ling.43
窓を開けよう 窓の由来

まど、という言葉を辞書で調べると、
いくつかの語源に行き当たる。

顔についている目の戸口と書いて、目戸(まと)。
人間にとって、目は外の世界を見て、
情報を受信するためのもの。
目が、身体の内側と外側をつなぐ穴だとすると、
窓は、家にとっての目だということだろうか。

または、間のとびらと書いて、間戸(まと)とも書く。
伝統的な日本家屋においては、周囲に壁はなく、
柱と柱の間に襖や障子を入れる。
シーンによって自由に仕切りをつくることもできるし、
夏には完全に開放して一続きの空間にすることもできた。

窓は、風と光を採り入れるだけのものではない。
間のとびらとして、内側と外側を曖昧につなぎながら、
目の戸口として、外の世界をスクリーンのように映してくれるものでもある。

出窓、飾り窓、天窓、フランス窓…
その人と、その場所の関係性の数だけ、
いろんな窓があるのかもしれない。

さて、いま目の前にある窓は、
あなたにとってどんな窓だろうか?


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野村隆文 20年5月24日放送


窓を開けよう 世界一の窓

世界一有名な窓は?
と聞かれて、何を思い浮かべるだろうか。

ピラミッドには窓がない。
エッフェル塔や、タージマハルや、サグラダ・ファミリアは、
壮大な建築は思い浮かべど、窓の印象は薄いかもしれない。

あるいは、誰もが知っている窓は、
あなたの部屋の中にもある。

ウィンドウズ。
複数の窓=ウィンドウを開く操作方法から名付けられた、
世界のコンピュータの80%以上で使われているシステム。

そもそも英語のwindowは、「風の目」を意味する。
その昔、風を防ぐためにどれだけ壁を作ろうとも、
塞ぎきれない隙間から、風は入りこんできてしまった。
その小さな穴を「風の目」と比喩的に捉えたのが、窓のはじまりなのだ。

いまやコンピュータは、手のひらサイズになった。
どれだけ遠ざけようとも、私たちの生活のなかに、
インターネットの風はどんどん吹き込むようになってきている。

近い将来、あらゆるものが窓となる時代に、
人と窓との付き合い方は、どう変わっていくのだろうか?


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野村隆文 20年5月24日放送

Ruth and Dave
窓を開けよう 窓税

イギリスの古い街を歩くと、
窓枠だけがあり、ガラスがふさがれている窓が見つかるかもしれない。
これは実は、1600年代の終わりから、実に150年以上にもわたり実施された、
「窓税」の名残。

当時、ガラスは非常に高価なもので、
裕福な家でなければガラスを窓に使うことができなかった。
逆に言えば、窓が多い家は裕福だろう、ということで、
住宅の窓の数に応じて課税されたのだ。

しかし、税を逃れようとして、
窓を埋めてしまう人々が続出。
そのため日光も射さず、風通りもない部屋が出来上がり、
健康を害する人々も後を絶たなかったとか。

この少し変わった税制は、
江戸時代の日本にもあった。

「間口税」と呼ばれ、家の間口の広さごとに税金がかかる仕組み。
京都では、節税のために町家の間口はどんどん狭くなり、
間口が狭く奥に細長い「うなぎの寝床」と呼ばれるまでに至ったとか。

大きな窓を自由に開けられることは、
いつの時代も当たり前のことではないのだ。


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野村隆文 20年5月24日放送

Shinoda-tym
窓を開けよう 日本一の窓

日本一窓の多い部屋、は定かではないが、
日本一窓の多い茶室は、
江戸時代に建てられた京都の擁翠亭(ようすいてい)
だと言われている。

設計者は、3代将軍徳川家光の茶の湯の先生であった
小堀遠州(こぼりえんしゅう)。
その茶室は、なんと全部で13の窓を持ち、
「十三窓席」(じゅうさんそうせき)の異名がついている。

中に座ると、眼前には色鮮やかな緑の庭園が広がる。
茶室の閉鎖性と、茶屋のような開放感が同時に存在する、
ちょっと変わった茶室。

千利休が好む、「わび」「さび」を代表する内向きの趣に対し、
落ち着きのあるたたずまいの中にも華やかさを伝える
遠州の「きれいさび」という美意識が、
見事に体現されている。

彼は、窓を開け放つことで、
茶会は暗く閉ざされたものという価値観にも、
軽やかに風と光を採り入れたのだ。


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野村隆文 20年5月24日放送


窓を開けよう 窓辺の人

善も悪も、ようするに人間の内にあるもの
すべてを引き出して際立たせるのが
窓なのである。

都市や建物を研究する建築史家であり、
建築家としても活躍する藤森照信はそう言った。

窓辺に立った人には、額縁に入ったように、
安定感と、格別な気配が生まれるという。

想像するのは、映画のワンシーン。
ラブロマンスでは、窓辺で恋人に想いを馳せ、
サスペンスでは、窓越しに異変がないか目を光らせる。
コメディは、たいてい窓を突き破るし、
ファンタジーは、窓から未知への旅に出る。

窓辺は人の本質を引き出し、
想像力をかき立ててくれるのだ。

家から出られない日曜日。
たまには窓辺に椅子を置いたりして、ゆっくり過ごしてみれば、
あたらしい考えや、今まで知らなかった自分が見つかるかもしれない。


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野村隆文 20年5月24日放送

Colt International Limited
窓を開けよう 窓は生命である

イタリアの建築家でありデザイナー、ジオ・ポンティは、
窓は生命であり内部でもある、と言った。

ピラミッドや塚といった、
幾何学に基づく古代建築の、現代の建築との違いは、
窓がないこと。
それもそのはず、墓では誰も会わないからだ。

一方で、マシンランドスケープと呼ばれる、
巨大なデータセンターや、物流倉庫がある。
現代の生活の象徴とも言える人間不在の建築には、
当たり前のように、窓はない。

窓は、
その内部で生活する人々のためのものであり、
そこに人が生きている証拠でもある。


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野村隆文 20年5月24日放送


窓を開けよう 心地よい窓辺へ

窓辺を提示すること。
荒れ狂う世界に対して、建築ができることはこれしかない。

力強い言葉でそう語ったのは、
新しい銀座線渋谷駅の設計も手掛けた建築家、内藤廣。

アルヴァ・アアルトの名建築 マイレア邸に感銘を受けた内藤は、
その窓辺は、大きな安堵感と、人の尊厳を支える場所だと述べる。

人にとって居場所があることは、不安定で混乱した外の世界に対する
心のシェルターとしての役割も大きい。
そもそも、建築は風雨から身体を守るものとして発展したもの。
あらゆる窓辺や建築は、人間が自由に守られるために存在するのだ。

人の居場所が、あらためて考え直されている今。

自分の家に、好きな街のどこかに、あるいは
遠く離れた国や、バーチャルな空間のなかに、
それぞれの人にとって居心地のいい、
とっておきの窓辺が見つかりますように。


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